【質疑内容】
遺留分侵害額の請求に基づく金銭の支払に代えて、土地等の譲渡所得の起因となる資産を移転した場合の譲渡所得について説明してください。
【回答内容】
1 関係法令等
(1) 所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含みます。)による所得をいう旨規定しています。
(2) 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定し、同条第2項は、同条第1項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定しています。
(3) 所得税基本通達33-1の6《遺留分侵害額の請求に基づく金銭の支払に代えて行う資産の移転》は、民法第1046条《遺留分侵害額の請求》第1項の規定による遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求があった場合において、金銭の支払に代えて、その債務の全部又は一部の履行として資産(当該遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求の基因となった遺贈又は贈与により取得したものを含みます。)の移転があったときは、その履行をした者は、原則として、その履行があった時においてその履行により消滅した債務の額に相当する価額により当該資産を譲渡したこととなる旨定めています。
2 回答
(1) 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)により、令和元年7月1日以降、遺留分制度が改正されたところ、改正後の遺留分制度においては「遺留分侵害額の請求」となり、その法的性質は、遺留分侵害額に相当する金銭債権が発生することとされました。すなわち、遺留分権利者は、受遺者又は受贈者(以下「受遺者等」といいます。)に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができることとされ、逆に、受遺者等は、遺留分権利者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払をすれば足り、受遺者等が取得した権利が当然に遺留分権利者に帰属することにはならないこととされました。
このように、遺留分権利者が取得する権利を金銭債権とすることによって、遺留分権利者は、減殺された遺贈等の目的財産の所有権又は共有持分権を主張することができなくなり、受遺者等に対する一般債権者としての地位を有することとなります。
(2) 上記(1)のとおり、遺留分侵害額の請求として金銭債権化されたことに伴い、民法上、遺留分権利者は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求のみを行うことができることとなったものの、受遺者等が金銭で支払うことが困難である場合等において、当事者間の合意により金銭の支払に代えて他の財産を給付することも想定され、そのような方法で遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求に対する債務の全部又は一部の弁済をすることは、代物弁済に該当するものと考えられます。
そして、遺留分侵害額の請求権の行使により、遺留分権利者から受遺者等に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求があった場合において、受遺者等が遺留分権利者の承諾を得て、金銭の支払に代え、その債務の全部又は一部の履行として保有する資産(その遺留分侵害額の支払請求の基因となった遺贈等により取得したものを含みます。)の移転をしたときは、代物弁済による資産の移転に該当すると考えられることから、受遺者等は、原則として、その履行があった時においてその履行により消滅した債務の額に相当する価額によりその資産を譲渡したことになるものと考えられます。
なお、この資産の移転をしたときに譲渡所得の収入金額となる「その履行により消滅した債務の額」について、この資産の移転が金銭の支払に代えて行われるものであることからすれば、通常は、その資産の時価に相当する債務の額を消滅させる旨の合意が行われるものと考えられますが、その資産の時価とその遺留分侵害額に相当する金額との間に差額が生じる場合も想定されます。このような場合においては、その当事者間の合意に至る経緯やその合意内容等を踏まえ、その資産の移転により消滅した債務の額を個々に判断し、譲渡所得の収入金額を決定する必要があるものと考えられます。
作成日:令和7年12月3日
