【質疑内容】
甲は、その子である乙に対し、共同住宅として賃貸の用に供している建物(以下「本件建物」といいます。)の贈与をしました。
本件建物の贈与に当たって、①賃借人から預かった敷金相当額の現金も併せて贈与した場合と、②本件建物のみを贈与した場合のそれぞれの課税関係について説明してください。
【回答内容】
1 関係法令等
(1) 相続税法関係
イ 相続税法第21条の2《贈与税の課税価格》第1項は、贈与により財産を取得した者がその年中における贈与による財産の取得について同法第1条の4《贈与税の納税義務者》第1項第1号又は第2号の規定に該当する者である場合においては、その者については、その年中において贈与により取得した財産の価額の合計額をもって、贈与税の課税価格とする旨規定しています。
ロ 相続税法基本通達21の2-4《負担付贈与の課税価格》は、負担付贈与に係る贈与財産の価額は、負担がないものとした場合における当該贈与財産の価額から当該負担額を控除した価額によるものとする旨定めています。
(2) 財産評価基本通達(以下「評価通達」といいます。)関係
イ 評価通達89《家屋の評価》及び評価通達別表1は、家屋の価額は、その家屋の固定資産税評価額に1.0の倍率を乗じて計算した金額によって評価する旨定め、評価通達93《貸家の評価》は、貸家の価額は、次の算式により計算した価額によって評価する旨定めています。
|
評価通達89《家屋の評価》、89-2《文化財建造物である家屋の評価》又は92《附属設備等の評価》の定めにより評価したその家屋の価額(A) |
- |
A |
× |
借家権 割 合 |
× |
賃貸割合 |
ロ 平成元年3月29日付直評5ほか「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」(以下「負担付贈与等通達」といいます。)の1の本文は、土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」といいます。)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」といいます。)のうち、負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得したものの価額は、当該取得時における通常の取引価額に相当する金額によって評価する旨定め、そのただし書は、贈与者又は譲渡者が取得又は新築した当該土地等又は当該家屋等に係る取得価額が当該課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該取得価額に相当する金額によって評価することができる旨定めています。
(3) 所得税法関係
所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定し、同条第3項は、譲渡所得の金額は、その年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする。
2 回答
(1) 敷金と敷金返還債務の承継
敷金とは、不動産の賃借人が、賃料その他の債務を担保するために契約成立の際、あらかじめ賃貸人に交付する金銭(権利金と異なり、賃貸借契約が終了すれば賃借人に債務の未払いがない限り返還されます。)であり、その法的性格は、停止条件付返還債務である(判例・通説)とされています。
また、賃貸中の建物の所有権の移転があった場合には、旧所有者に差し入れた敷金が現存する限り、たとえ新旧所有者間に敷金の引継ぎがなくても、賃貸中の建物の新所有者は当然に敷金を引き継ぐとされています(判例・通説)。
(2) 負担付贈与の場合の課税関係
イ 負担付贈与とは、例えば、Aが土地を贈与する代わりにBに借入金を支払ってもらうというような契約、すなわち、受贈者に一定の債務を負担させることを条件にした財産の贈与をいいます。
ロ 負担付贈与の場合の贈与税の課税価格は、相続税法基本通達21の2-4の定めにより、負担がないものとした場合における贈与財産の価額から負担額を控除した価額となります。
この場合の贈与財産の価額は、①負担付贈与により取得した財産が土地等及び家屋等の場合には、負担付贈与等通達1の定めにより、当該取得時における通常の取引価額に相当する金額、すなわち時価によって評価した価額となり、②負担付贈与によって取得した財産が土地等及び家屋等以外のものである場合には、財産評価基本通達に基づき評価した価額となります。
ハ また、負担付贈与に係る贈与財産が譲渡所得の起因となる資産の場合には、債務の消滅を対価として当該贈与財産の所有権が移転することとなり、無償による資産の移転ではないことから、贈与者は、負担額でその贈与財産を譲渡したこととなり、譲渡益が生じる場合には、譲渡所得として所得税の対象となります。
(3) 本質疑における課税関係
本質疑のように、旧所有者である甲が賃借人に対して敷金返還義務を負っている状態で、新所有者である乙に対し、本件建物を贈与した場合には、乙は敷金返還債務を承継することとなるため、法形式上は、負担付贈与に該当します。
イ 敷金相当額の現金を併せて贈与した場合の課税関係
上記のとおり、法形式上は、負担付贈与に該当するものの、敷金相当額の現金を併せて贈与している場合には、一般的に、贈与者においては敷金返還債務を承継させる意図、受贈者においては敷金返還債務を承継する意図がいずれもなく、実質的にみても、負担はないと認めるのが相当であると考えられます。
そうすると、敷金相当額の現金を併せて贈与した場合は、実質的に負担付贈与には該当しないと解するのが相当であるため、負担付贈与等通達は適用されません。
したがって、敷金相当額の現金を併せて贈与した場合には、乙は、評価通達89及び評価通達93に基づき評価した本件建物の価額に贈与税が課税されることとなり、また、甲は、実質的に負担付贈与に該当せず譲渡の対価がないことから、譲渡所得に係る課税は生じません。
ロ 本件建物のみを贈与した場合の課税関係
上記イに対し、本件建物のみを贈与した場合には、乙は敷金返還義務を承継し、敷金の負担をすることとなるため、負担付贈与等通達が適用されます。
したがって、本件建物のみを贈与した場合には、乙は、本件建物の通常の取引価額(時価)から敷金返還債務の額を控除した価額に贈与税が課税されることとなり、また、甲は、敷金返還債務の消滅額から本件建物の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し譲渡益が算出される場合には、譲渡所得として所得税が課税されることとなります。
作成日:令和7年9月24日
