【質疑内容】
令和X年4月1日に死亡した甲の共同相続人は、甲の配偶者である乙及び甲の子である丙の2名で、乙及び丙は、甲の相続に係る相続税について、法定申告期限までに申告しましたが、乙は、乙固有の預金口座から出金した金員を基に、丙が納付すべき相続税額を納付しました。
この場合の贈与税の課税関係について説明してください。
【回答内容】
1 関係法令等
(1) 民法関係
民法第549条《贈与》は、贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる旨規定しています。
(2) 相続税法関係
相続税法第9条本文は、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなす旨規定し、そのただし書は、当該行為が、当該利益を受ける者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その者の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるためになされたものであるときは、その贈与により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない旨規定しています。
2 回答
相続税、贈与税又は所得税をはじめ租税は、本来の納税義務を負う者が履行すべきものであるため、丙が納付すべき相続税額を乙が負担した場合には、次の1ないし2の場合に応じて贈与税が課税されることとなります。
なお、金銭消費貸借契約が成立し、あるいは、一時的に立て替えてもらったにすぎないというように、債権債務関係と認められる場合には、贈与税は課税されません(ただし、この場合でも、その後債務免除があった場合などには、贈与税が課税されます。)。
(1) 本来贈与の場合
乙が、丙が納付すべき相続税額に相当する金銭を無償で丙に与える意思を表示し、丙がこれを受諾したと認められる場合には、私法上、贈与によって財産を取得したものと認められるため、丙に本来の贈与として贈与税が課税されることとなります。
(2) みなし贈与の場合
イ 相続税法第9条は、上記1の(2)のとおり規定しているところ、その趣旨とするところは、私法上、贈与によって財産を取得したものと認められない場合に、そのような私人間の法律関係の形式とは別に、実質的にみて、贈与を受けたのと同様の経済的利益を享受している事実がある場合に、租税回避行為を防止し、税負担の公平を図る見地から、贈与契約の有無にかかわらず、その取得した経済的利益を、当該利益を受けさせた者からの贈与によって取得したものとみなして 贈与税を課税することとしたものと解されます。
そして、相続税法第9条が規定する「利益を受けた場合」とは、おおむね利益を受けた者の財産(積極財産)の増加又は債務(消極財産)の減少があった場合等を意味するものと解され、上記趣旨に鑑みると、同条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合に該当するか否かの判定については、対価の支払の事実の有無を実質により判定し、当該経済的利益を受けさせた者の財産の減少と、贈与と同様の経済的利益の移転があったか否かにより判断することを要するものと解するのが相当です(参考:国税不服審判所令3年7月12日裁決)。
ロ 本来の贈与と認められない場合には、丙の相続税債務の減少及び乙の財産の減少があったといえ、贈与と同様の経済的利益の移転があったと認められるため、丙が資力を喪失して債務を弁済することが困難であると認められない限り、丙にみなし贈与として贈与税が課税されることとなります。
【参考】相続税法第8条の規定により贈与税が課税される場合
1 関係法令等
(1) 相続税法第8条柱書及び同条第1号及び第2号は、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で債務の免除、引受け又は第三者のためにする債務の弁済による利益を受けた場合においては、当該債務の免除、引受け又は弁済があった時において、当該債務の免除、引受け又は弁済による利益を受けた者が、当該債務の免除、引受け又は弁済に係る債務の金額に相当する金額を当該債務の免除、引受け又は弁済をした者から贈与により取得したものとみなす旨規定し、そのただし書は、当該債務の免除、引受け又は弁済が、①債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、当該債務の全部又は一部の免除を受けたとき(第1号)又は②債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その債務者の扶養義務者によって当該債務の全部又は一部の引受け又は弁済がなされたとき(第2号)のいずれかに該当する場合においては、その贈与により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない旨規定しています。
(2) 相続税法第34条《連帯納付の義務等》第1項本文は、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責めに任ずる旨規定し、同条第4項は、財産を贈与した者は、当該贈与により財産を取得した者の当該財産を取得した年分の贈与税額に当該財産の価額が当該贈与税の課税価格に算入された財産の価額のうちに占める割合を乗じて算出した金額として政令で定める金額に相当する贈与税について、当該財産の価額に相当する金額を限度として、連帯納付の責めに任ずる旨規定しています。
また、相続税法第34条第5項は、税務署長は、納税義務者の相続税につき当該納税義務者に対し国税通則法第37条《督促》の規定による督促をした場合において当該相続税が当該督促に係る督促状を発した日から1月を経過する日までに完納されないときは、同条の規定にかかわらず、当該相続税に係る連帯納付義務者に対し、当該相続税が完納されていない旨その他の財務省令で定める事項を通知するものとする旨、相続税法第34条第6項は、税務署長は、同条第5項の規定による通知をした場合において同条第1項本文の規定により相続税を連帯納付義務者から徴収しようとするときは、当該連帯納付義務者に対し、納付すべき金額、納付場所その他必要な事項を記載した納付通知書による通知をしなければならない旨、同条第7項は、税務署長は同条第6項の規定による通知を発した日の翌日から2月を経過する日までに当該通知に係る相続税が完納されない場合には、当該通知を受けた連帯納付義務者に対し、国税通則法第37条の規定による督促をしなければならない旨、それぞれ規定しています。
(3) 相続税法基本通達《連帯債務者及び保証人の求償権の放棄》8-3は、次に掲げる場合には、それぞれ次に掲げる金額につき相続税法第8条の規定による贈与があったものとみなされるのであるから留意する旨定め、その(1)は、連帯債務者が自己の負担に属する債務の部分を超えて弁済した場合において、その超える部分の金額について他の債務者に対し求償権を放棄したときはその超える部分の金額、その(2)は、保証債務者が主たる債務者の弁済すべき債務を弁済した場合において、その求償権を放棄したときはその代わって弁済した金額を定めています。
また、相続税法基本通達34-3《連帯納付の責めにより相続税又は贈与税の納付があった場合》は、相続税法第34条第1項又は第4項の規定による連帯納付の責めに基づいて相続税又は贈与税の納付があった場合において、その納付が相続若しくは遺贈により財産を取得した者又は贈与により財産を取得した者がその取得した財産を費消するなどにより資力を喪失して相続税又は贈与税を納付することが困難であることによりなされたときは、相続税法基本通達8-3の取扱いの適用はないのであるから留意する旨定め、その注書は、相続税法第34条第1項又は第4項の規定による連帯納付の責めに基づいて相続税又は贈与税の納付があった場合において、上記の場合に該当しないときには、相続税法基本通達8-3の適用がある旨定めています。
2 相続税法第8条の規定による贈与税の課税
相続税又は贈与税をはじめ租税は、本来の納税義務を負う者が履行すべきものであるが、これらの者に納付の義務を限定してしまうことは、租税の徴収確保の上から適当でない場合も生ずることが予想され、また、同一の相続に起因する遺産の総額を基礎として計算される相続税について、他の共同相続人に対し連帯納付義務を全く追求しない場合には、租税債権が満足されず、共同相続人以外の一般の納税者の負担になること等から、本来の納税義務者以外の者に租税の納税義務を課することとしているものであり、本来の納税義務者以外の者に対して相続税法第34条の規定に基づく納付義務の履行を求める場合には、その者にとって不意打ちとならないよう税務署長に対して一定の手続を求めています。
相続税又は贈与税の連帯納付の義務は、本来の納税義務者に資力がないこと等の理由により租税債権の徴収ができない場合に備え、他の共同相続人又は贈与者に課した特別の履行責任であると考えられ、このような連帯納付の義務の趣旨からすれば、この義務は本来の納税義務と同等のものとはいえず、その関係は主たる債務と従たる債務の関係にあって、連帯納付義務者において納税義務を履行した場合には、本来の納税義務者に対する求償権が発生するものと考えられます。
そこで、相続税法基本通達34-3は、本来の納税義務者が資力を喪失して相続税又は贈与税を納付することが困難な場合において、他の共同相続人又は贈与者が相続税法第34条第1項又は第4項の規定による連帯納付の責めに基づいて相続税又は贈与税の納付をしたときは、求償権の放棄の有無にかかわらず贈与として取り扱わないことを明らかにしたものです。
なお、本来の納税義務者が資力喪失の状態がない場合において相続税法第34条第2項又は第4項の規定による連帯納付の責めに基づいて相続税又は贈与税の納付があったときは、相続税法基本通達8-3の取扱いが適用されるため、連帯納付の責めによって生じた求償権を放棄したとき(積極的な放棄がない場合であっても明らかに求償権を行使しないと認められる場合を含みます。)に贈与があったものと取り扱われることとなります。
作成日:令和7年9月24日
