27-04_相続の開始があったことを知った日

 

【質疑内容】

相続の開始があったことを知った日について説明してください。

 

【回答内容】

1 関係法令等

(1) 民法関係

イ 民法第30条《失踪の宣告》第1項は、不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪そうの宣告をすることができる旨規定し、同条第2項は、戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止やんだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときも、同条第1項と同様とする旨規定しています。

ロ 民法第31条《失踪の宣告の効力》は、同法第30条第1項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第2項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす旨規定しています。

ハ 民法第32条《失踪の宣告の取消し》第1項は、失踪者が生存すること又は同法第31条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない旨規定し、この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない旨規定しています。

また、民法第32条第2項本文は、失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う旨規定し、そのただし書は、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う旨規定しています。

ニ 民法第775条《嫡出否認の訴え》第1項は、次に掲げる否認権は、それぞれ次に定める者に対する嫡出否認の訴えによって行う旨規定しています。

() 父の否認権 子又は親権を行う母(第1号)

() 子の否認権 父(第2号)

() 母の否認権 父(第3号)

() 前夫の否認権 父及び子又は親権を行う母(第4号)

また、民法第775条第2項は、同条第1項第1号又は第4号に掲げる否認権を親権を行う母に対し行使しようとする場合において、親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない旨規定しています。

ホ 民法第787条《認知の訴え》本文は、子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる旨規定し、そのただし書は、父又は母の死亡の日から3年を経過したときは、この限りでない旨規定しています。

ヘ 民法第886条《相続に関する胎児の権利能力》第1項は、胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす旨規定し、同条第2項は、同条第1項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない旨規定しています。

ト 民法第892条《推定相続人の廃除》は、遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいいます。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる旨規定しています。

チ 民法第893条《遺言による推定相続人の廃除》は、被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない旨規定し、この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる旨規定しています。

リ 民法第894条《推定相続人の廃除の取消し》第1項は、被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる旨規定し、同条第2項は、同法第893条の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する旨規定しています。

(2) 戸籍法関係

戸籍法第89条本文は、水難、火災その他の事変によって死亡した者がある場合には、その取調をした官庁又は公署は、死亡地の市町村長に死亡の報告をしなければならない旨規定し、そのただし書は、外国又は法務省令で定める地域で死亡があったときは、死亡者の本籍地の市町村長に死亡の報告をしなければならない旨規定しています。

(3) 相続税法関係

イ 相続税法第27条《相続税の申告書》第1項は、相続又は遺贈(当該相続に係る被相続人からの贈与により取得した財産で同法第21条の9《相続時精算課税の選択》第3項の規定の適用を受けるものに係る贈与を含みます。以下同じ。)により財産を取得した者及び当該被相続人に係る相続時精算課税適用者は、当該被相続人からこれらの事由により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格に係る相続税額があるときは、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内に課税価格、相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない旨規定しています。

ロ 相続税法基本通達27-4《「相続の開始があったことを知った日」の意義》の本文は、相続税法第27条第1項及び第2項に規定する「相続の開始があったことを知った日」とは、自己のために相続の開始があったことを知った日をいうのであるが、例えば、次に掲げる者については、次に掲げる日をいうものとして取り扱うものとする旨定め、そのなお書は、当該相続に係る被相続人を特定贈与者とする相続時精算課税適用者に係る「相続の開始があったことを知った日」とは、次に掲げる日にかかわらず、当該特定贈与者が死亡したこと又は当該特定贈与者について民法第30条の規定による失踪の宣告に関する審判の確定のあったことを知った日となるのであるから留意する旨定めています。

() 民法第30条及び第31条の規定により失踪の宣告を受け死亡したものとみなされた者の相続人又は受遺者は、これらの者が当該失踪の宣告に関する審判の確定のあったことを知った日

() 相続開始後において当該相続に係る相続人となるべき者について民法第30条の規定による失踪の宣告があり、その死亡したものとみなされた日が当該相続開始前であることにより相続人となった者は、その者が当該失踪の宣告に関する審判の確定のあったことを知った日

() 民法第32条第1項の規定による失踪宣告の取消しがあったことにより相続開始後において相続人となった者は、その者が当該失踪の宣告の取消しに関する審判の確定のあったことを知った日

() 民法第787条の規定による認知に関する裁判又は同法第894条第2項の規定による相続人の廃除の取消しに関する裁判の確定により相続開始後において相続人となった者は、その者が当該裁判の確定を知った日

() 民法第775条の規定による嫡出否認に関する裁判又は同法第892条若しくは第893条の規定による相続人の廃除に関する裁判の確定により相続開始後において相続人になった者は、その者が当該裁判の確定を知った日

() 民法第886条の規定により、相続について既に生まれたものとみなされる胎児は、法定代理人がその胎児の生まれたことを知った日

() 相続開始の事実を知ることのできる弁識能力がない幼児等は、法定代理人がその相続の開始のあったことを知った日(相続開始の時に法定代理人がないときは、後見人の選任された日)

() 遺贈(被相続人から相続人に対する遺贈を除きます。()において同じ。)によって財産を取得した者は、自己のために当該遺贈のあったことを知った日

() 停止条件付の遺贈によって財産を取得した者は、当該条件が成就した日

 

2 裁判例等

(1) 最高裁判所平成18年7月14日第二小法廷判決は、要旨、次のとおり判断しています。

相続税法27条1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者について、納付すべき相続税額があるときに相続税の申告書の提出義務が発生することを前提として、その申告書の提出期限を「その相続の開始があったことを知った日の翌日から6月以内」と定めているものと解するのが相当である。上記の「その相続の開始があったことを知った日」とは、自己のために相続の開始があったことを知った日を意味し、意思無能力者については、法定代理人がその相続の開始のあったことを知った日がこれに当たり、相続開始の時に法定代理人がないときは後見人の選任された日がこれに当たると解すべきであるが、意思無能力者であっても、納付すべき相続税額がある以上、法定代理人又は後見人の有無にかかわらず、申告書の提出義務は発生しているというべきであって、法定代理人又は後見人がないときは、その期限が到来しないというにすぎない。

(2) 東京地方裁判所平成27年2月27日判決は、要旨、次のとおり判断しています。

相続税法27条1項は、相続により財産を取得した者は、当該被相続人から財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者に係る相続税の課税価格に係る同法の規定による相続税額があるときは、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内に課税価格、相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない旨を定めているところ、同項にいう「相続の開始があったことを知つた日」とは、自己のために相続の開始があったことを知った日をいうものと解され(最高裁平成18年7月14日第二小法廷判決参照)、それは、①被相続人が死亡したことにより相続が開始したこと及び②自己が被相続人の相続人であることの双方を知った日をいうものと解するのが相当である。

 

3 回答

(1) 相続税法第27条第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者及び当該被相続人に係る相続時精算課税適用者は、当該被相続人からこれらの事由により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格に係る相続税額があるときは、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内に課税価格、相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない旨規定しているところ、同項に規定する「相続の開始があったことを知った日」とは、自己のために相続の開始があったことを知った日をいうものと解され、それは、①被相続人が死亡したことにより相続が開始したこと及び②自己が被相続人の相続人又は受遺者であることの双方を知った日をいうものと解するのが相当です。

したがって、相続税の申告書の提出義務者が相続人である場合には、被相続人の死亡の事実を了知した日が相続の開始があったことを知った日となり、受遺者(相続人を除きます。)の場合には、被相続人の死亡の事実及び遺贈の事実の双方を知った日が相続の開始があったことを知った日となります。また、第1順位の相続人全員が相続の放棄をしたことにより相続人となった第2順位の相続人の場合には、被相続人の死亡の事実及び第1順位の相続人全員が相続の放棄をしたことの双方を知った日が相続の開始があったことを知った日となります。

なお、相続時精算課税適用者については、相続時精算課税の適用を受ける財産に係る贈与を受けた時から、当該贈与に係る特定贈与者に相続が開始した時には自己が相続税の納税義務者となることを承知しているといえることから、相続時精算課税適用者に係る「相続の開始があったことを知った日」とは、当該特定贈与者が死亡したこと又は当該特定贈与者について民法第30条の規定による失綜の宣告に関する審判の確定のあったことを知った日となります。

(2) その他、相続の開始があったことを知った日について、特殊な場合を例示すれば、次のとおりとなります。

イ 民法第30条及び第31条の規定により失踪の宣告を受け死亡したものとみなされた者の相続人又は受遺者は、これらの者が当該失踪の宣告に関する審判の確定のあったことを知った日が相続の開始があったことを知った日となります。

なお、戸籍法第89条の規定に基づくいわゆる認定死亡の場合には、官庁又は公署が死亡の報告を死亡地の市町村長に行ったことを知った日をもって、相続開始があったことを知った日となります。

ロ 相続開始後において当該相続に係る相続人となるべき者について民法第30条の規定による失踪の宣告があり、その死亡したものとみなされた日が当該相続開始前であることにより相続人となった者は、その者が当該失踪の宣告に関する審判の確定のあったことを知った日が相続の開始があったことを知った日となります。

ハ 民法第32条第1項の規定による失踪宣告の取消しがあったことにより相続開始後において相続人となった者は、その者が当該失踪の宣告の取消しに関する審判の確定のあったことを知った日が相続の開始があったことを知った日となります。

ニ 民法第787条の規定による認知に関する裁判又は同法第894条第2項の規定による相続人の廃除の取消しに関する裁判の確定により相続開始後において相続人となった者は、その者が当該裁判の確定を知った日が相続の開始があったことを知った日となります。

ホ 民法第775条の規定による嫡出否認に関する裁判又は同法第892条若しくは第893条の規定による相続人の廃除に関する裁判の確定により相続開始後において相続人になった者は、その者が当該裁判の確定を知った日が相続の開始があったことを知った日となります。

ヘ 民法第886条の規定により、相続について既に生まれたものとみなされる胎児は、法定代理人がその胎児の生まれたことを知った日が相続の開始があったことを知った日となります。

ト 相続開始の事実を知ることのできる弁識能力がない幼児等は、法定代理人がその相続の開始のあったことを知った日(相続開始の時に法定代理人がないときは、後見人の選任された日)が相続の開始があったことを知った日となります。

チ 遺贈(被相続人から相続人に対する遺贈を除きます。()において同じ。)によって財産を取得した者は、自己のために当該遺贈のあったことを知った日が相続の開始があったことを知った日となります。

リ 停止条件付の遺贈によって財産を取得した者は、当該条件が成就した日が相続の開始があったことを知った日となります。

 

 

作成日:令和8年4月22