【質疑内容】
無利息債務(弁済すべき金額が確定し、かつ、相続開始の当時まだ弁済期の到来しない金銭債務)の評価について説明してください。
【回答内容】
1 関係法令等
(1) 相続税法第13条《債務控除》第1項柱書及び同項第1号は、相続又は遺贈により財産を取得した者が同法第1条の3《相続税の納税義務者》第1項第1号又は第2号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含みます。)の金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による旨規定しています。
(2) 相続税法第14条第1項は、同法第13条の規定によりその金額を控除すべき債務は、確実と認められるものに限る旨規定しています。
(3) 相続税法第22条《評価の原則》は、同法第3章《財産の評価》で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による旨規定しています。
(4) 財産評価基本通達(以下「評価通達」といいます。)4-4《基準年利率》は、評価通達第2章《土地及び土地の上に存する権利》以下に定める財産の評価において適用する年利率は、別に定めるものを除き、年数又は期間に応じ、日本証券業協会において売買参考統計値が公表される利付国債に係る複利利回りを基に計算した年利率(以下「基準年利率」といいます。)によることとし、その基準年利率は、短期(3年未満)、中期(3年以上7年未満)及び長期(7年以上)に区分し、各月ごとに別に定める旨定めています。
2 裁判例等
(1) 最高裁判所昭和49年9月20日第三小法廷判決は、要旨、次のとおり判断しています。
弁済すべき金額が確定し、かつ、相続開始の当時まだ弁済期の到来しない金銭債務の評価について考えると、その債務につき通常の利率による利息の定めがあるときは、その相続人は、弁済期が到来するまでの間、通常の利率による利息額相当の経済的利益を享受する反面、これと同額の利息を債権者に支払わなければならず、彼此差引きされることとなるから、右利息の点を度外視して、債務の元本金額をそのまま相続開始の時における控除債務の額と評価して妨げない。これに対し、約定利率が通常の利率より低い場合には、相続人において、通常の利率による利息と約定利率による利息との差額に相当する経済的利益を弁済期が到来するまで毎年留保しうることとなるから、当該債務は、右留保される毎年の経済的利益の現在価値の総額だけその消極的価値を減じているものというべきであり、したがつて、このような債務を評価するときは、右留保される毎年の経済的利益について通常の利率により弁済期までの中間利息を控除して得られたその現在価額(なお、右中間利息は複利によって計算するのが経済の実情に合致する。)を元本金額から差し引いた金額をもつて相続開始の時における控除債務の額とするのが、相当である。
(2) 大阪高等裁判所平成20年11月27日判決は、要旨、次のとおり判断しています。
弁済すべき金額の確定している金銭債務の場合であっても、その額面金額が当然に当該債務の相続開始時における消極的経済価値を示すものとして課税価格算出の基礎となるものではなく、金銭債権について、その権利の具体的内容によって時価を評価するものと同様に、金銭債務についてもその利率や弁済時期等の現況によって控除すべき金額を個別的に評価しなければならない。そして、弁済期が未到来の確定金銭債務に関して、その約定利率が通常の利率よりも低い場合には、相続人において通常の利率による利息と約定利率による利息との差額に相当する経済的利益を弁済期が到来するまで毎年留保し得ることとなるから、当該債務は、留保される毎年の経済的利益の現在価値の総額だけその消極的価値を減じているものというべきである。そうすると、このような債務を評価するには、債務者に留保される毎年の経済的利益について、通常の利率によって弁済期までの中間利息を控除して得られた、その現在価値を額面金額から差し引いた金額をもって、相続開始時において控除すべき債務の額と解するのが相当である。そして、当該中間利息は、これを複利によって計算するのが経済の実情に合致するというべきであるから、相続債務の金額を相続開始時における「現況」によって評価するには、債務の額面金額に通常の利率を基に算出した複利現価率を乗ずる方法で行うべきこととなる。
(3) 国税不服審判所平成26年4月22日裁決は、要旨、次のとおり判断しています。
相続税は、財産の無償取得によって生じた経済的価値の増加に対して課される租税であるところから、その課税価格の算出に当たっては、取得財産と控除すべき債務の双方について、それぞれの現に有する経済的価値を客観的に評価した金額を基礎とするものである。ただ、控除すべき債務については、その性質上客観的な交換価値なるものがないため、交換価値を意味する「時価」に代えて、その「現況」により控除すべき金額を評価する旨定められている(相続税法第22条)ものと解される。したがって、控除すべき債務が弁済すべき金額の確定している金銭債務の場合であっても、その弁済すべき金額が当然に当該債務の相続開始の時における消極的経済価値を示すものとして課税価格算出の基礎となるものではなく、あたかも金銭債権につきその権利の具体的内容によって時価を評価するのと同様に、金銭債務についてもその利率や弁済期等の現況によって控除すべき金額を個別的に評価しなければならないのであり、かくして決定された控除すべき金額は、必ずしも常に当該債務の弁済すべき金額と一致するものではない。
そして、弁済すべき金額が確定し、かつ、弁済期が未到来である無利息の金銭債務(無利息債務)であれば、これを承継した相続人は、通常の利率による利息相当額の経済的利益を弁済期が到来するまで毎年留保し得ることとなるから、無利息債務については、上記のように留保される毎年の経済的利益の現在価値の総額だけその消極的経済価値を減じているものというべきである。
そうすると、無利息債務を評価するには、債務者に留保される毎年の経済的利益について、通常の利率によって弁済期までの中間利息を控除して得られたその現在価値を弁済すべき金額から差し引いた金額をもって、相続開始時において控除すべき債務の額と解するのが相当である。
(4) 国税不服審判所昭和57年6月14日裁決は、要旨、次のとおり判断しています。
ビルの賃貸に際し、賃借人から預託を受けた保証金債務は、形式上長期かつ無利息等であるが、それは、本件保証金の利息と本件賃貸ビルの賃貸料の額の一部とを相殺して単にそのように約定されているものであり、実質的には本件保証金債務金額から控除されるべき経済的利益の額はないものと認められるから、単に形式的に無利息等であるからとして債務控除の適用上経済的利益を毎年享受するものとしてその現在価値を控除して当該債務の額を算定することは相当でない。
3 回答
(1) 借地権等の設定に際し、保証金等の授受がある場合には、相続税の課税価格の計算上、賃貸人(地主)にとっては債務額を、賃借人(借地人)にとっては債権額を計上しなければならないところ、無利息債務に係る債務控除額(又は無利息債権に係る評価額)は、相続税法第22条に規定により、相続開始時の現況(又は相続開始時の時価)により評価することとなるため、無利息債務(又は無利息債権)は、弁済すべき金額(又は弁済を受けるべき金額)から無利息であることによる経済的利益を控除して評価すべきであり、その算定の際の複利現価率は、評価通達4-4の定めにより合理的に定められた基準年利率によることが相当であるものと考えられます。
具体的には、無利息債務(又は無利息債権)の価額は、次の算式により評価することとなります。
(算式)
|
保証金等の額に 相当する金額 |
× |
課税時期における借地権等の残存期 間年数 に応ずる基準年利率による複利年金 減価率 |
(2) なお、賃貸借契約等の締結に当たり、保証金等を無利息で預託することによる経済的利益を考慮して賃料の額を決定した事実が認められるような場合には、実質的には保証金等の債務金額から控除されるべき経済的利益の額はないものと認められることから、単に形式的に無利息等であるからとして債務控除の適用上経済的利益を毎年享受するものとしてその現在価値を控除して当該債務の額を算定することは相当でないものと考えられます。
【参考】
約定利率が基準年利率未満の場合には、債務額(又は債権額)は、次の算式により評価することとなります。
(算式)
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( |
保証金等の額に 相当する金額 |
× |
課税時期における借地権 等残存期間年数に応ずる 基準年利率による複利年 金減価率 |
) |
|
+ |
( |
保証金等の額に相当する金額 |
× |
基準年利率未満の約定利率 |
× |
課税時期における借地権等の 残存期間年数に応ずる基準年 利率による複利年金減価率 |
) |
作成日:令和8年3月16日
