32-05_分割確定に伴う更正の請求(小規模宅地等の特例)

 

【質疑内容】

1 事実関係

(1) 令和X年4月1日に死亡した甲(甲の死亡により開始した相続を「本件相続」といいます。)の共同相続人は、いずれも甲の子である乙及び丙の2名です。

(2) 甲の相続財産には、甲が事業の用に供していた事務所及びその敷地(以下「本件A土地」といい、当該事務所と併せて「本件A不動産」といいます。)並びに甲が貸付の用に供していた共同住宅及びその敷地(以下「本件B土地」といい、当該共同住宅と併せて「本件B不動産」といいます。)などがありました。

(3) 乙及び丙は、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」といいます。)について、相続により取得した財産の全部が未分割であるとして、民法の規定による相続分の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付した上で、法定申告期限である令和X+1年2月1日までに申告書を提出しました。

(4) 乙及び丙は、第1回目の遺産分割協議を行い、令和X+2年12月1日に、乙が本件A不動産を取得することなどを主な内容とする遺産分割協議が成立し、本件A不動産は、本件相続を原因として、甲から乙へ所有権移転登記がされ、その後、乙及び丙は、第2回目の遺産分割協議を行い、令和X+3年5月1日に、丙が本件B不動産を取得することなどを主な内容とする遺産分割協議が成立し、本件B不動産は、本件相続を原因として、甲から丙へ所有権移転登記がされました。

2 質疑事項

乙及び丙は、本件相続税について、令和X+3年5月1日をもって甲の相続財産の全ての遺産分割協議が終わったことから、①本件A土地に小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例を適用すること及び②上記(4)の各遺産分割協議に基づく取得財産の変動を理由として各更正の請求をする予定ですが、当該各更正の請求は認められるでしょうか(以下、甲及び乙が予定している各更正の請求を「本件各更正請求」といいます。)。

なお、本件A士地は特定事業用宅地等に、本件B土地は貸付事業用宅地等にそれぞれ該当します。

 

【回答内容】

1 関係法令等

(1) 国税通則法(以下「通則法」といいます。)関係

イ 通則法第23条《更正の請求》第1項本文及び同項第1号は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときには、当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨規定しています。

ロ 通則法第23条第2項は、納税申告書を提出した者又は同法第25条《決定》の規定による決定を受けた者は、次の()ないし()のいずれかに該当する場合(納税申告書を提出した者については、次の()ないし()に定める期間の満了する日が同法第23条第1項に規定する期間の満了する日後に到来する場合に限ります。)には、同項の規定にかかわらず、次の()ないし()に定める期間において、その該当することを理由として同項の規定による更正の請求をすることができる旨規定しています。

() その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含みます。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき その確定した日の翌日から起算して2月以内(第1号)

() その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算に当たってその申告をし、又は決定を受けた者に帰属するものとされていた所得その他課税物件が他の者に帰属するものとする当該他の者に係る国税の更正又は決定があったとき 当該更正又は決定があった日の翌日から起算して2月以内(第2号)

() その他当該国税の法定申告期限後に生じた()又は()に類する政令で定めるやむを得ない理由があるとき 当該理由が生じた日の翌日から起算して2月以内(第3号)

(2) 相続税法関係

イ 相続税法第32条《更正の請求の特則》第1項柱書は、相続税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は、同項各号のいずれかに該当する事由により当該申告又は決定に係る課税価格及び相続税額(当該申告書を提出した後又は当該決定を受けた後修正申告書の提出又は更正があった場合には、当該修正申告又は更正に係る課税価格及び相続税額)が過大となったときは、当該各号に規定する事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額につき更正の請求(通則法第23条第1項の規定による更正の請求をいいます。)をすることができる旨規定し、相続税法第32条第1項第1号は、同法第55条《未分割遺産に対する課税》の規定により分割されていない財産について民法(第904条の2《寄与分》を除きます。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従って計算された課税価格と異なることとなったことを、相続税法第32条第1項第8号は、相続税法第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》第2項ただし書の規定に該当したことにより、同項の分割が行われた時以後において同条第1項の規定を適用して計算した相続税額がその時前において同項の規定を適用して計算した相続税額と異なることとなったこと(相続税法第32条第1項第1号に該当する場合を除きます。)をそれぞれ規定しています。

ロ 相続税法第55条本文は、相続若しくは包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当該相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によってまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2を除きます。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算するものとする旨規定し、そのただし書は、その後において当該財産の分割があり、当該共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従って計算された課税価格と異なることとなった場合においては、当該分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、納税義務者において申告書を提出し、若しくは同法第32条第1項に規定する更正の請求をし、又は税務署長において更正若しくは決定をすることを妨げない旨規定しています。

ハ 相続税法基本通達32-2《法第19条の2ただし書の規定に該当したことによる更正の請求の期限》は、相続税法第19条の2第2項ただし書の規定に該当したことにより、同項の分割が行われた時以後においてその分割により取得した財産に係る課税価格又は同条第1項の規定を適用して計算した相続税額が当該分割の行われた時前において確定していた課税価格又は相続税額と異なることとなったときは、同法第32条第1項の規定による更正の請求のほか通則法第23条の規定による更正の請求もできるので、その更正の請求の期限は、当該分割が行われた日から4月を経過する日と相続税法第27条《相続税の申告書》第1項に規定する申告書の提出期限から5年を経過する日とのいずれか遅い日となるのであるから留意する旨定めています。

(3) 租税特別措置法(以下「措置法」といいます。)関係

イ 措置法第69条の4《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第1項は、個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいいます。)で財務省令で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令で定めるもの(特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等及び貸付事業用宅地等に限る。以下「特例対象宅地等」といいます。)がある場合には、当該相続又は遺贈により財産を取得した者に係る全ての特例対象宅地等のうち、当該個人が取得をした特例対象宅地等又はその一部でこの項の規定の適用を受けるものとして政令で定めるところにより選択をしたもの(以下「選択特例対象宅地等」といいます。)については、限度面積要件を満たす場合の当該選択特例対象宅地等(以下「小規模宅地等」といいます。)に限り、相続税法第11条の2《相続税の課税価格》に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に所定の割合を乗じて計算した金額とする旨規定しています(以下、措置法第69条の4第1項に規定する課税の特例を「小規模宅地等の特例」といいます。)。

ロ 措置法第69条の4第4項本文は、小規模宅地等の特例は、相続又は遺贈に係る相続税法第27条《相続税の申告書》の規定による申告書の提出期限(以下「申告期限」といいます。)までに共同相続人又は包括受遺者によって分割されていない特例対象宅地等については、適用しない旨規定し、そのただし書は、その分割されていない特例対象宅地等が申告期限から3年以内(当該期間が経過するまでの間に当該特例対象宅地等が分割されなかったことにつき、当該相続又は遺贈に関し訴えの提起がされたことその他の政令で定めるやむを得ない事情がある場合において、政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、当該特例対象宅地等の分割ができることとなつた日として政令で定める日の翌日から4月以内)に分割された場合には、その分割された当該特例対象宅地等については、この限りでない旨規定しています。

ハ 措置法第69条の4第5項は、相続税法第32条第1項の規定は、措置法第69条の4第4項ただし書の場合について準用する旨規定しており、租税特別措置法施行令第40条の2《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第26項の規定により、相続税法第32条第1項第8号を読み替えると、要旨、措置法第69条の4第4項ただし書の規定に該当したことにより、分割が行われた時以後において小規模宅地等の特例を適用して計算した相続税額がその時前において小規模宅地等の特例を適用して計算した相続税額と異なることとなったこと(相続税法第32条第1項第1号に該当する場合を除きます。)となります。

ニ 措置法第69条の4第7項は、小規模宅地等の特例は、小規模宅地等の特例の適用を受けようとする者の当該相続又は遺贈に係る相続税法第27条の規定による申告書(これらの申告書に係る期限後申告書及びこれらの申告書に係る修正申告書を含みます。)に小規模宅地等の特例の適用を受けようとする旨を記載し、小規模宅地等の特例による計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する旨規定しています。

ホ 「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」(以下「措置法通達」という。)69の4-26《申告書の提出期限後に分割された特例対象宅地等について特例の適用を受ける場合》は、相続税法第27条の規定による申告書の提出期限後に特例対象宅地等の全部又は一部が分割された場合には、当該分割された日において他に分割されていない特例対象宅地等があるときであっても、当該分割された特例対象宅地等の全部又は一部について、小規模宅地等の特例の適用を受けるために措置法第69条の4第5項において準用する相続税法第32条の規定による更正の請求を行うことができるのは、当該分割された日の翌日から4月以内に限られており、当該期間経過後において当該分割された特例対象宅地等について同条の規定による更正の請求をすることはできないことに留意する旨定めています。

 

2 裁判例等

(1) 東京地方裁判所平成9年1023日判決

東京地方裁判所平成9年1023日判決は、要旨、次のとおり判断しています。

相続税法第32条(現、第32条第1項)各号列記以外の部分は、同条各号のいずれかに該当する事由により納付すべき税額が過大となったときには、その分割が行われたことを知った日の翌日から4か月以内に限り、通則法第23条第1項の規定による更正の請求をすることができるとし、相続税法第32条第1号は、法定申告期限経過後に当該未分割財産の分割が行われ、共同相続人が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分の割合に従って計算された課税価格と異なることとなったとの事由を掲げている。これによれば、右更正の請求は所定事由に該当した場合に限って認められるものであり、相続税法第32条第1号の事由は、未分割の遺産につき、いったん同法第55条の規定による計算で税額が確定した後、遺産の分割が行われ、その結果、既に確定した相続税額が過大になるという相続税に固有の後発的事由について規定したものであって、右規定に基づく更正の請求は、当初の申告に存在するとされる過誤の是正を求めることを目的とするものではない。

(2) 国税不服審判所平成29年1月6日裁決

国税不服審判所平成29年1月6日裁決は、要旨、次のとおり判断しています。

請求人らは、本件における各更正の請求は、相続税の法定申告期限から5年以内に行っているから、通則法第23条第1項所定の要件を満たす旨主張する。

しかしながら、通則法第23条第1項は、課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあった場合に更正の請求をすることができる旨規定しているところ、請求人らは、期限内申告時及び修正申告時において未分割財産がいまだ分割されていなかったため、相続税法第55条の規定に基づき、これを法定相続分の割合に従って取得したものとしてその課税価格を計算したものであり、この点について、国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は計算に誤りがあったとは認められないから、当該各更正の請求は、通則法第23条第1項所定の要件を満たすものではない。

(3) 国税不服審判所令和3年6月22日裁決

イ 請求人らは、措置法第69条の4第4項ただし書にある「特例対象宅地等が申告期限から3年以内に分割された」というのは、「全ての相続財産が申告期限から3年以内に分割された」と解釈して、相続税法第32条第1項の更正の請求を認めるべきであるから、本件の各更正の請求は、相続税法第32条第1項所定の期限内にされたものである旨主張する。

しかしながら、請求人らによって、小規模宅地等の特例の対象とした土地は、遺産分割協議書の作成日付の日において遺産分割がされたものと認められるところ、当該各更正の請求は、本件における特例対象宅地等の価額の計算における小規模宅地等の特例の適用について、申告の時点では未分割であったが、当該土地の遺産分割により「申告期限から3年以内に分割された場合」に該当したことによりされたものであるから、相続税法第32条第1項第1号及び第8号に規定する課税価格及び相続税額が異なることとなったことを知った日についても、当該土地の遺産分割の日であるというべきであり、小規模宅地等の特例の適用についてされる相続税法第32条第1項に規定する更正の請求は、当該土地の遺産分割の日の翌日から4月以内にしたものに限られることとなり、請求人らは、これをしなかったものであるから、その後にされた当該各更正の請求が相続税法第32条第1項所定の期限内にされたものに該当することはない。

ロ 請求人らは、申告期限後3年以内の分割見込書を提出し、申告期限から3年以内に特例対象宅地等を分割しているから、小規模宅地等の特例が適用された計算によるべきところ、これと異なる計算をしている申告には誤りがあるため、請求人らの各更正の請求は、通則法第23条第1項所定の要件に該当する旨主張する。

しかしながら、当該申告は、措置法第69条の4第4項本文の規定に従い、分割されていなかった特例対象宅地等の価額の計算に小規模宅地等の特例を適用しなかったものであり、通則法第23条第1項に規定する課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったものでも当該計算に誤りがあったものでもない。また、小規模宅地等の特例は、措置法第69条の4第4項本文において、相続税の申告書の提出期限までに共同相続人又は包括受遺者によって分割が行われていない遺産については適用しないとしつつ、同項ただし書において、その分割されていない遺産が相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割された場合には、その分割された遺産についてはこの限りでない旨規定しており、遺産分割が行われたときは、その時点において小規模宅地等の特例を適用することとしたものであって、申告期限時に遡って適用することを規定したものと解することはできない。そして、小規模宅地等の特例においては、相続税法第19条の2第3項のような通則法第23条第1項の規定が適用できることを明確に示す規定がない。このように、申告期限までに未分割であった遺産への小規模宅地等の特例の適用は、措置法第69条の4第4項ただし書に該当した時点(遺産分割の時点)の事実関係及び法律関係を前提にすべきものであるところ、当該各更正の請求は、申告期限後に行われた遺産分割の時点の事実関係及び法律関係を前提に小規模宅地等の特例を適用できるとするものであって、申告期限を基準として通則法第23条第1項第1号所定の事由に該当するものとはならないから、当該各更正の請求は、通則法第23条第1項所定の要件に該当しない。

 

3 回答

(1) 本件各更正請求は相続税法第32条第1項所定の要件を充足するか否か

相続税法第32条第1項は、上記1の(2)のイのとおり規定しているところ、第1回目遺産分割協議が成立したのは令和X+2年12月1日であり、乙及び丙は、同日、このことを知ったものと認められることから、本件各更正請求のうち、第1回目遺産分割協議による本件A不動産を含む分割確定に係る部分については、当該分割が確定したことを知った日の翌日から4月以内にされたものとは認められません。

なお、第2回目遺産分割協議に係る遺産分割協議が成立したのは令和X+3年5月1日であり、乙及び丙は、同日、このことを知ったものと認められ、質疑の内容からすれば、当該分割が確定したことを知った日の翌日から4月を経過していないものと思われます。

したがって、本件各更正請求のうち、第1回目遺産分割協議による本件A不動産を含む分割確定に係る部分について、当該分割確定に伴う本件A土地への小規模宅地等の特例の適用及び取得財産の変動は、いずれも相続税法第32条第1項所定の要件を充足しませんが、本件各更正請求のうち、本件B不動産を含む分割確定に係る部分について、当該分割確定に伴う取得財産の変動は、相続税法第32条第1項所定要件を充足するものと考えられます。

(2) 本件各更正請求は通則法第23条第1項所定の要件を充足するか否か

通則法第23条第1項は、上記1の(1)のイのとおり規定しているところ、乙及び丙は、本件相続税について、措置法第69条の4第4項本文の規定に従い、分割されていなかった特例対象宅地等の価額の計算に小規模宅地等の特例を適用しなかったものであり、この点について、国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は計算に誤りがあったとは認められません。

また、乙及び丙は、本件相続税について、相続により取得した財産の全部が未分割であるとして、相続税法第55条の規定に基づき、民法の規定による相続分の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算した上で申告したものであり、この点について、国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は計算に誤りがあったとは認められません。

したがって、本件各更正請求のうち、本件A土地への小規模宅地等の特例の適用及び取得財産の変動については、いずれも通則法第23条第1項所定の要件を充足しないものと考えられます。

 

 

作成日:令和7年9月24