【質疑内容】
個人で自営業を営む甲は、金融機関からの100,000千円の借入金を返済するため、甲が所有する固定資産たる時価40,000千円のA土地を売却し、当該借入金の一部を返済することを考えていたところ、甲の父である乙から、この時価40,000千円のA土地を100,000千円で購入してもよい旨の申出を受け、甲は、乙に対し、A土地を100,000千円で売却する旨の売買契約を締結しました。
この場合の所得税及び贈与税の課税関係について説明してください。
【回答内容】
1 関係法令等
(1) 所得税法関係
イ 所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定し、同条第3項は、譲渡所得の金額は、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定しています。
ロ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定しています。
(2)相続税法関係
イ 相続税法第9条本文は、同法第5条《贈与により取得したものとみなす場合》から第8条まで及び第1章《相続》第3節《信託に関する特例》に規定する場合を除くほか、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があつた場合には、その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす旨規定し、そのただし書は、当該行為が、当該利益を受ける者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その者の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるためになされたものであるときは、その贈与又は遺贈により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない旨規定しています。
2 裁判例等
(1) 東京地方裁判所平成25年9月27日判決及び東京高等裁判所平成26年5月19日は、法人と個人間の株式に係る高額譲渡について、要旨、次のとおり判断しています。
イ 所得税法は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得という所得区分を設けるほか(同法23条ないし34条)、それらに含まれない所得を全て雑所得として課税の対象としており(同法35条)、人の担税力を増加させる経済的利得は全て所得を構成するという包括的所得概念を採用して、所得がその性質や発生の態様によって担税力が異なるという前提に立って、公平負担の観点から、各種の所得について、それぞれの担税力に応じた計算方法を定め、また、それぞれの態様に応じた課税方法を定めるために、所得をその源泉ないし性質によって10種類に分類している。
また、所得税法は、所得金額の計算の通則として同法36条を置き、同条1項は、その年分の各種所得の総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定している。
ロ 所得税法33条1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定し、同条3項は、譲渡所得の金額は、その年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。
そして、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであり、売買交換等によりその資産の移転が対価の受入れを伴うときは、上記増加益が対価のうちに具体化されるので、法はこれを課税の対象としてとらえたものであると解される。そうすると、有償の譲渡が行われる場合において譲渡所得として課税される対象は、当該資産の譲渡の「対価」たる性格を有する金額であると解することが相当である。したがって、個人がその有する資産を有償で譲渡した場合であっても、当該譲渡金額中に当該資産の譲渡の「対価」たる性格を有しない部分があるときは、当該部分は、譲渡所得の課税対象ではないこととなる。
ハ 所得税法34条は、一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定している。そうすると、資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの、例えば、法人からの贈与により取得する金品(業務に関して受けるもの及び継続的に受けるものを除く。)は、一時所得たる性質を有することとなる。
ニ 以上によれば、個人がその有する資産を法人に対して有償で譲渡した場合における課税関係は、当該譲渡価額が、当該資産の譲渡の「対価」たる性格を有する限りにおいて、譲渡所得に係る収入金額として課税されるが、当該譲渡価額中に当該資産の譲渡の「対価」たる性格を有しておらず、法人から贈与された金品(業務に関して受けるもの及び継続的に受けるものを除く。以下同じ。)としての性格を有する部分があると認められるときは、当該部分の金額については、一時所得に係る収入金額として課税されるべきこととなる。
そして、譲渡する資産が上場株式であるときは、その譲渡価額がその資産の譲渡の「対価」たる性格を有しているかどうかは、当該上場株式の市場価格、当該取引の動機ないし目的、当該取引における価格の決定の経緯、当該価格の合理性などの諸点に照らして判断すべきものと解される。
(2) 大阪地方裁判所平成25年12月12日判決は、相続税法第9条の趣旨について、要旨、次のとおり判断しています。
相続税法第9条の趣旨は、法律的には贈与又は遺贈によって財産を取得したものとはいえないが、そのような法律関係の形式とは別に、実質的にみて,贈与又は遺贈を受けたのと同様の経済的利益を享受している事実がある場合に、租税回避行為を防止するため、税負担の公平の見地から、贈与契約又は遺言の有無にかかわらず、その取得した経済的利益を、当該利益を受けさせた者からの贈与又は遺贈によって取得したものとみなして、贈与税又は相続税を課税することとしたものと解される。
(3) 国税不服審判所令和3年7月12日裁決は、相続税法第9条の趣旨について、要旨、次のとおり判断しています。
相続税法第9条は、対価を支払わないで又は著しく低い価額の対価で利益を受けた者がいる場合に、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を、当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなして、贈与税を課税することとした規定である。
その趣旨とするところは、私法上、贈与によって財産を取得したものと認められない場合に、そのような私人間の法律関係の形式とは別に、実質的にみて、贈与を受けたのと同様の経済的利益を享受している事実がある場合に、租税回避行為を防止し、税負担の公平を図る見地から、贈与契約の有無にかかわらず、その取得した経済的利益を、当該利益を受けさせた者からの贈与によって取得したものとみなして、贈与税を課税することとしたものと解される。
相続税法第9条が規定する「利益を受けた場合」とは、おおむね利益を受けた者の財産(積極財産)の増加又は債務(消極財産)の減少があった場合等を意味するものと解され、上記趣旨に鑑みると、同条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合に該当するか否かの判定については、対価の支払の事実の有無を実質により判定し、当該経済的利益を受けさせた者の財産の減少と、贈与と同様の経済的利益の移転があったか否かにより判断することを要するものと解するのが相当である。
3 回答
(1) 個人がその有する資産を他の個人に対して有償で譲渡した場合における課税関係は、当該譲渡価額が、当該資産の譲渡の「対価」たる性格を有する限りにおいて、譲渡所得に係る収入金額として課税されますが、当該譲渡価額中に当該資産の譲渡の「対価」たる性格を有しておらず、個人から贈与された金品としての性格を有する部分があると認められるときは、当該部分の金額については、贈与税の課税価格に算入され贈与税が課税されるべきこととなります。
(2) ここで、混合贈与とは、当事者の一方の給付が価格的にー部分のみ対価関係に立ち、これを超える部分は無償で与えられ、したがって、その限りにおいて双方の間に贈与の意思があるという契約をいいます。すなわち、主観において双方のなすべき給付が、対価としての均衡を失している契約、例えば、時価100万円の物を、譲受人を利させる意図(贈与の意思)で1万円で譲渡するなど、贈与と売買が混合した契約をいいます。
そして、このような混合贈与については、無償で財産を与えることについての合意が成立したその無償部分については、本来の贈与として贈与税が課税されるものと解されます。
(3) 本質疑の場合、A土地に係る売買契約上の売買価格100,000千円のうち40,000千円については、A土地の譲渡の「対価」たる性格を有していると認められることから、譲渡所得に係る収入金額として所得税が課税されますが、当該100,000千円のうち60,000千円については、A土地の譲渡の「対価」たる性格を有していないことから、贈与税の課税価格に算入され贈与税が課税されるものと考えられます。
なお、本質疑の場合、甲及び乙のいずれも、A土地の時価が40,000千円であることを認識した上で、100,000千円で売買する旨の売買契約を締結したもの、すなわち、60,000千円の部分については、明示又は黙示により贈与契約が成立したものと考えられることから、本来の贈与として贈与税が課税されますが、贈与の意思及びこれを受諾する意思があるとまでは認められない場合には、相続税法第9条の規定により贈与があったものとみなされ贈与税が課税されるものと考えられます。
作成日:令和7年10月15日
