21の9-02_養子縁組の解消を前提とした相続時精算課税の適用

 

【質疑内容】

甲は、その養父である乙と養子縁組の解消をする予定であるところ、甲が居住の用に供している家屋及びその敷地が乙の名義となっており、乙から甲に対し、贈与により名義変更することを考えています。

この場合、甲は、贈与税の申告に当たって、相続時精算課税制度を適用することができるか否かについて説明してください。

 

【回答内容】

1 関係法令等

(1) 国税通則法関係

イ 国税通則法第5条《相続による国税の納付義務の承継》第1項前段は、相続があった場合には、相続人又は民法第951条《相続財産法人の成立》の法人は、その被相続人に課されるべき、又はその被相続人が納付し、若しくは徴収されるべき国税を納める義務を承継する旨規定し、国税通則法第5条第2項は、同条第1項前段の場合において、相続人が二人以上あるときは、各相続人が同項前段の規定により承継する国税の額は、同項の国税の額を民法第900条《法定相続分》から第902条《遺言による相続分の指定》までの規定によるその相続分により按分して計算した額とする旨規定しています。

ロ 国税通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項本文及び同項第5号は、納税義務は、贈与税(附帯税を除く。)については、贈与(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を除く。)による財産の取得の時に成立する旨規定しています。

(2) 相続税法関係

イ 相続税法第21条の9《相続時精算課税の選択》第1項は、贈与により財産を取得した者がその贈与をした者の推定相続人(その贈与をした者の直系卑属である者のうちその年1月1日において18歳以上であるものに限ります。)であり、かつ、その贈与をした者が同日において60歳以上の者である場合には、その贈与により財産を取得した者は、その贈与に係る財産について、同法第3節《相続時精算課税》の規定の適用を受けることができる旨規定しています。

ロ 相続税法第21条の9第2項は、同条第1項の規定の適用を受けようとする者は、政令で定めるところにより、同法第28条《贈与税の申告書》第1項の期間内に同法第21条の9第1項に規定する贈与をした者からのその年中における贈与により取得した財産について同項の規定の適用を受けようとする旨その他財務省令で定める事項を記載した届出書(以下「相続時精算課税選択届出書」といいます。)を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない旨規定しています。

ハ 相続税法第21条の9第3項は、相続時精算課税選択届出書に係る贈与をした者からの贈与により取得する財産については、相続時精算課税選択届出書に係る年分以後、同法第2節《贈与税》及び第3節の規定により、贈与税額を計算する旨規定しています。

ニ 相続税法第21条の9第4項は、その年1月1日において18歳以上の者が同日において60歳以上の者からの贈与により財産を取得した場合にその年の中途においてその者の養子となったことその他の事由によりその者の推定相続人となったとき(配偶者となったときを除きます。)には、推定相続人となった時前にその者からの贈与により取得した財産については、同条第1項の規定の適用はないものとする旨規定しています。

ホ 相続税法第21条の9第5項は、相続時精算課税選択届出書を提出した者(以下「相続時精算課税適用者」という。)が、相続時精算課税選択届出書に係る同条第1項の贈与をした者(以下「特定贈与者」といいます。)の推定相続人でなくなった場合においても、当該特定贈与者からの贈与により取得した財産については、同条第3項の規定の適用があるものとする旨規定しています。

ヘ 相続税法第21条の9第6項は、相続時精算課税適用者は、同条第2項の相続時精算課税選択届出書を撤回することができない旨規定しています。

(3) 相続税法基本通達(以下「相続税通達」といいます。)関係

イ 相続税通達1の3・1の4共-8《財産取得の時期の原則》柱書及びその(2)は、贈与による財産取得の時期は、書面によるものについてはその契約の効力の発生した時、書面によらないものについてはその履行の時によるものとする旨定めています。

ロ 相続税通達1の3・1の4共-11《財産取得の時期の特例》本文は、所有権等の移転の登記又は登録の目的となる財産について相続税通達1の3・1の4共-8の(2)の取扱いにより贈与の時期を判定する場合において、その贈与の時期が明確でないときは、特に反証のない限りその登記又は登録があった時に贈与があったものとして取り扱うものとする旨定めています。

ハ 相続税通達21の9-1《推定相続人の判定》は、相続税法第21条の9第1項に規定する「贈与をした者の推定相続人」とは、当該贈与をした日現在においてその贈与をした者の最先順位の相続権(代襲相続権を含みます。)を有する者をいい、推定相続人であるかどうかの判定は、当該贈与の日において行うのであるから留意する旨規定しています。

 

2 回答

(1) 相続時精算課税制度を適用することができるか否かについて

イ 相続税法第21条の9第1項は、贈与により財産を取得した者がその贈与をした者の推定相続人(その贈与をした者の直系卑属である者のうちその年1月1日において18歳以上であるものに限ります。)であり、かつ、その贈与をした者が同日において60歳以上の者である場合には、その贈与により財産を取得した者は、その贈与に係る財産について、同法第3節の規定の適用を受けることができる旨規定しているところ、ここに規定する「贈与をした者の推定相続人」とは、その括弧書において「直系卑属である者」とされていることから、その贈与をした日現在においてその贈与をした者の最先順位の相続権(代襲相続権を含みます。)を有する者をいい、また、推定相続人であるか否かの判定時期は、贈与を受けた年の1月1日又は相続時精算課税選択届出書の提出時ではなく、当該贈与の日において行うこととなります(相続税通達21の9-1)。

なお、当該贈与の日(贈与による財産の取得時期)は、書面によるものについてはその契約の効力の発生した時、書面によらないものについてはその履行の時となり、また、所有権等の移転の登記又は登録の目的となる財産について、その贈与の時期が明確でないときは、特に反証のない限りその登記又は登録があった時に贈与があったものとして取り扱われることとなります(相続税通達1の3・1の4共-8及び1の3・1の4共-11)。

※ 相続税法第21条の9第5項は、相続時精算課税適用者が、相続時精算課税選択届出書に係る特定贈与者の推定相続人でなくなった場合においても、当該特定贈与者からの贈与により取得した財産については、同条第3項の規定の適用があるものとする旨規定しているところ、そもそも、相続税法は、特定贈与者の推定相続人でなくなった場合(本質疑においては養子縁組の解消)についても規定されており、法的に想定されているものといえます(課税庁が問題視するとすれば、養子縁組自体に無効となるべき要因があるか否かであるものと考えられます)。

ロ したがって、甲と乙とが養子縁組の解消をする予定であったとしても、贈与の日において、当該養子縁組が解消されていない場合には、ほかの適用要件を充足する限り、甲は、相続時精算課税制度を適用することができます。

(2) 相続時精算課税制度を適用するための手順について

上記(1)のとおり、甲が相続時精算課税制度を適用するためには、(ほかの要件を充足することを前提として、)贈与の日において、養子縁組が解消されていないことが必要となることから、相続時精算課税制度を適用するための手順は、次のとおりとなります。

イ 贈与契約の締結及び贈与契約書の作成

ロ 贈与に係る不動産の所有権移転登記

ハ 養子縁組の解消(ニの後でも可)

ニ 贈与税の申告書及び相続時精算課税選択届出書(添付書類を含みます。)の期限内提出

(注)贈与契約について

停止条件付の贈与契約である場合には、当該条件が成就した時が贈与による財産取得の時期となることから、当該条件が成就した時よりも後に養子縁組を解消しないと相続時精算課税制度を適用することができないことに留意すべきです(相続税通達1の3・1の4共-9並びに民法第127条第1項及び第2項)。

なお、停止条件と解除条件は、いずれも契約や法律行為の効力に影響を与える条件で、停止条件とは、特定の条件が成就された場合に契約の効力が発生する条件をいい、条件が成就するまで契約の効力が発生しないのに対し、解除条件とは、特定の条件が成就された場合に契約の効力が消滅する条件をいい、条件が成就するまで契約の効力が有効で、成就すると契約の効力が消滅します。

(3) 養子縁組解消後の留意事項等について

養子縁組解消後の主な留意事項等は、次のような事項等であるものと考えられます。

イ 贈与税について

乙からの贈与について、相続時精算課税制度を選択すると、撤回や取消をすることができず、養子縁組を解消したとしても、贈与を受けた年分以降、乙から贈与により財産を取得した場合には、相続時精算課税制度が適用されることとなります(相続税法第21条の9第3項、第5項及び第6項)。

ロ 相続税について

乙を被相続人とする相続税について、相続時精算課税適用財産の贈与時の価額(贈与を受けた年分ごとに、相続時精算課税適用財産の贈与時の価額の合計額から相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した残額)と相続又は遺贈を受けた財産の相続時の価額の合計額を基に計算した相続税額から、既に納付した相続時精算課税適用財産に係る贈与税相当額を控除した金額をもって納付すべき相続税額を計算することとなり、養子縁組解消後の場合には、甲は、乙の一親等の血族及び配偶者以外の者であることから、甲の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算されることとなります(相続税法第18条第1項及び民法第729条等)。

なお、甲が死亡した後に乙を被相続人とする相続が開始した場合には、相続時精算課税適用者である甲が有していた相続時精算課税の規定の適用を受けていたことに伴う納税に係る権利又は義務を甲の法定相続人が承継することとなります(相続税法第21条の17第1項及び第3項並びに国税通則法第5条第1項及び第2項)。

ハ 相続権について

養子縁組を解消すると相続人ではなくなることから、遺言による遺贈は可能であるものの、甲は、乙の財産を相続する権利はなくなることとなります(民法第729条等)。

ニ 養子縁組の解消によって相続人でなくなった場合でも、乙から甲に対し、多額の財産を生前に贈与すると、ほかの相続人の遺留分を侵害し、遺留分侵害額請求をされるおそれがあります(民法第1042条ないし第1048条)。

※ 遺留分とは、遺留分権利者について、被相続人の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことで、被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのないものであり、被相続人が財産を遺留分権利者以外に贈与又は遺贈をし、遺留分に相当する財産を受け取ることができなかった場合、遺留分権利者は、贈与又は遺贈を受けた者に対し、遺留分を侵害されたとして、その侵害額に相当する金銭の支払を請求することでき、これを遺留分侵害額の請求といいます。

遺留分侵害額の請求は、遺留分に関する権利を行使する旨の意思表示を相手方にする必要があり、通常、内容証明郵便等により意思表示を行い、当事者間で話合いを行うこととなりますが、遺留分侵害額の請求について当事者間で話合いがつかない場合や話合いができない場合には、家庭裁判所の調停手続を利用することができます。

なお、この遺留分に関する権利を行使する旨の意思表示をしないときは、遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年を経過したときに時効によって消滅し、また、相続の開始時から10年を経過したときも同様です。

 

 

作成日:令和8年5月20