【質疑内容】
1 事実関係
(1) 令和X年2月1日に死亡した甲(以下、甲の死亡により開始した相続を「本件相続」といいます。)の相続人は、甲の子である乙のみです。
(2) 甲の相続財産である〇〇市〇〇町〇丁目〇番の土地(以下「本件土地」といいます。)は、本件相続の開始日において、都市計画法第7条《区域区分》第2項に規定する市街化区域に所在していたところ、本件土地は、間口距離約〇m、平均奥行距離約〇mのほぼ整形な土地で、南側が市道〇号線と等高に接面し、その全体にアスファルトが敷設された凹凸のない平坦な土地で、月ぎめ駐車場の敷地として利用されていました。
(3) 乙は、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」)について、財産評価基本通達(以下「評価通達」といいます。)82《維種地の評価》の定めに基づき本件土地を評価した上で、法定申告期限までに申告書を提出しました。
なお、乙は、本件土地の評価に当たり、道路面と等高に接面し、凹凸のない平坦な土地であることから、財産評価基準書の「宅地造成費の金額表」の「1 市街地農地等の評価に係る宅地造成費」に定める宅地造成費を控除しませんでした。
(4) 乙は、本件土地に共同住宅を建築するため、本件相続の開始後の令和X+2年5月から同年6月にかけて宅地造成工事をしたところ、下表に掲げる各費用を要しました。
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費 目 |
金 額 |
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アスファルト撤去工事 |
XXX,XXX円 |
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地盤改良工事 |
X,XXX,XXX円 |
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整地工事 |
X,XXX,XXX円 |
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排水工事 |
XXX,XXX円 |
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道路工事 |
X,XXX,XXX円 |
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設備工事 |
X,XXX,XXX円 |
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付帯工事 |
XXX,XXX円 |
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廃材処分 |
XXX,XXX円 |
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合計 |
XX,XXX,XXX円 |
2 質疑内容
乙は、本件土地の価額は、同表に掲げる各費用の合計額の80%相当額(以下「本件宅地造成費相当額」といいいます。)を控除して評価すべきであるとして、更正の請求をしようと考えていますが、当該更正の請求は認められますか。
【回答内容】
1 関係法令等
(1) 相続税法関係
相続税法第22条《評価の原則》は、同法第3章《財産の評価》で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定しています。
(2) 評価通達関係
評価通達82の本文は、雑種地の価額は、原則として、その雑種地と状況が類似する付近の土地(以下「比準土地」といいます。)について評価通達の定めるところにより評価した1㎡当たりの価額を基とし、その土地とその雑種地との位置、形状等の条件の差を考慮して評定した価額に、その雑種地の地積を乗じて計算した金額によって評価する旨定めています。
2 裁判例等
東京地方裁所平成30年9月27日判決及び東京高等裁判所平成31年3月19日判決は、相続税法第22条及び評価通達について、要旨、次のとおり判断しています。
相続税法第22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、ここにいう「時価」とは、相続の場合についていえば、相続開始時の当該財産の客観的交換価値をいうものと解すべきである。
そして、財産の客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではなく、個別に評価する方法を採ると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることが避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、課税実務においては、各種財産の評価方法に共通する原則や各種財産の評価単位ごとの評価方法を具体的に定めた評価通達によって、画一的な評価方法により財産を評価することとされている。このような取扱いは、適用される評価通達が合理的なものである限りにおいて、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という観点からみて相当であり、かつ、租税負担の実質的な公平も実現することができるものである。
そうすると、評価対象の不動産に適用される評価通達の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであり、かつ、当該不動産の相続税の課税価格がその評価方法に従って決定された場合には、その課税価格は、その評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存しない限り、相続開始時における当該不動産の客観的交換価値としての適正な時価を上回るものではないと推認するのが相当である。
3 回答
(1) 雑種地の評価
評価通達82は、上記1の(2)のとおり定めているところ、比準土地を宅地として選定した場合に、比準土地である宅地と評価対象地である雑種地との位置、形状等の条件の差(位置、形状、宅地化のための造成費、建物の建築制限等)を算定する具体的な方法は評価通達には定められていません。
しかしながら、位置及び形状に関する条件の差については、評価対象地である雑種地が評価通達13《路線価方式》に定める路線価方式により評価する地域に所在している場合には、当該雑種地が接面する道路に設定された路線価及び地区区分を基として、評価通達15《奥行価格補正》から評価通達20-7《容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価》までの定めにより計算した金額により評価することが適切であると考えられ、課税実務上、そのように取り扱われています。
また、宅地化のための造成費に関する条件の差ついては、宅地造成費の金額によることが適切であると考えられ、具体的には、財産評価基準書に定められている「宅地造成費の金額表」によることが相当であり、課税実務上、そのように取り扱われています。
(2) 宅地造成費の金額
イ 農地等を宅地に転用するとは、農地等を建築物の建築の用に供するためにその地面や地盤の変更を行うことをいうものと解されますが、実際にはその地域、土質、造成規模、造成目的などの条件によってその内容は種々異なることとなり、その具体的な内容としては、①宅地以外の土地を宅地化するために土地の形質を変更するために行われる整地、土盛り又は土止めに係る工事と、②造成の目的が、戸建住宅、アパー ト、マンション、工場、倉庫、構築物の敷地などの各用途の別により必要とされる個別の工事とが考えられます。このうち、上記②の造成工事については、その土地上にどのような建物等を建築するかの個別事情に左右される部分が大きいことから各建築物に附属する費用とも捕らえることができます。
市街地農地等を評価するに当たって造成費相当額を控除するのは、市街地農地等の価額の形成要因が、農地等としての利用ではなく宅地としての利用を前提としたものであり、その要因は近隣の更地である宅地と変わりがなく、また、更地である宅地との比較においては、宅地造成費相当額分だけの格差があるものと認められることによります。そのために通常必要とされる宅地造成費とは、どのような建築物が建築されるかにかかわらず必要とされる整地、土盛り又は土止めに要する金額を指すものと解するのが相当です(参考:国税不服審判所平成19年11月5日裁決)。
ロ 宅地造成費の金額は、課税実務上、国税庁資産評価企画官補佐から各国税局資産評価官及び沖縄国税事務所資産課税課長宛てに示達される事務連絡(以下「本件事務連絡」という。)に基づき、各国税局及び沖縄国税事務所管内ごとに毎年算定(決定)されているところ、本件事務連絡は、平坦地及び傾斜地の別に宅地造成費の金額を算定するための宅地造成条件を定め、各国税局及び沖縄国税事務所において、実態調査等により把握した費目・数量(工事内容等に応じた費用額等)をエクセルシートに入力すれば、公表されている単価(人件費、材料費及び賃貸料金については、財団法人建設物価調査会発行の「建設物価」及び「土木コスト情報」、機械器具損料については、社団法人日本建設機械化協会発行の「建設機械等損料表」、間接工事費については、国土交通省の「土木工事積算基準」における「公園工事」の率)に基づいて、上記宅地造成条件における宅地造成工事の工事単価が自動的に積算され、この積算された工事単価に0.8を乗じて減額調整したものを宅地造成費の金額とするという内容です(参考:東京高等裁判所平成29年1月18日判決)。
(4) 回答
イ 評価通達82の本文は、上記1の(2)のとおり定めており、市街化区域に所在する雑種地の価額は、比準土地を付近の宅地とし、当該宅地の価額を基に比準して評価することとしているところ、市街化区域に所在する雑種地と付近にある宅地の価格水準に差がないことに照らせば、その評価方法は一般的な合理性を有するものと認められます(参考:東京地方裁判所令和3年12月3日判決)。
また、財産評価基準書に定める宅地造成費の金額は、本件事務連絡によって、造成工事に関する各地域の客観的数値を把握し、当該数値を基礎として、公表されている単価を用いて積算する方法で合理的に算出されたものであり、一般的な合理性を有するものであると認められます(参考:東京高等裁判所平成29年1月18日判決)。
そして、本件土地は、市街化区域に所在する雑種地であるととろ、市道〇号線とほぼ等高に接面しており、その全体にアスファルトが敷設された凹凸のない平坦な土地であることから、本件土地の評価に当たって、整地費などの宅地造成費の金額を控除することはできず、本件土地の価額を評価通達に基づき評価すると、乙が当初申告において評価した価額と同額となります(参考:国税不服審判所平成26年5月13日裁決)。
そうすると、乙が当初申告において評価した本件土地の価額は、評価通達に定める評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存しない限り、本件相続の開始時における本件土地の客観的交換価値としての適正な時価を上回るものではないと推認するのが相当です。
ロ 乙は、本件土地の価額の評価に当たって、本件宅地造成費相当額を控除して評価すべきであるとして、更正の請求をしようと考えているところ、本件土地について、財産評価基準書に定める宅地造成費の金額から大きく乖離した宅地造成を要する事情があると認められる場合には、評価通達に定められた評価方法を画一的に適用することによって、適正な時価を適切に算定することができない結果となるから、評価通達に定める評価方法によるべきではない特別の事情があるものと考えられます。
ハ 宅地造成費の金額とは、宅地に転用する場合において通常必要と認められる造成費に相当する金額、すなわち、どのような建築物が建築されるかにかかわらず、宅地として利用可能な状態に造成するに当たり必要とされる整地、土盛り又は土止めに要する費用の額をいい、宅地造成費の金額として考慮すべき費用とは、地盤及び地面の変更に関するもの、具体的には、整地費や土盛費などの宅地造成工事に要する費用であると解するのが合理的であるところ、本件土地は、市道〇号線とほぼ等高に接面しており、その全体にアスファルトが敷設された凹凸のない平坦な土地であり、宅地と同様の外観を呈していることから、宅地に転用する場合において通常必要と認められる造成費は、そもそも考慮する必要のないものです。
また、本件宅地造成費相当額は、宅地に転用する場合において通常必要と認められる宅地造成工事に係る費用だけではなく、排水工事、道路工事、設備工事及び付帯工事などに係る費用が含まれており、これらの費用は、どのような建築物が建築されるかにかかわらず必要とされる整地、土盛り又は土止めに要する金額(通常必要とされる造成費)とはいえず、本件宅地造成費相当額と財産評価基準書に定める宅地造成費の金額とを比較対照することもできず、本件宅地造成費相当額は、宅地と同様の外観を呈している本件土地を更に共同住宅の敷地として利用するために追加的・事後的に生じたものです(参考:国税不服審判所平成18年2月14日、平成24年3月27日、平成25年5月18日及び令和4年5月25日各裁決)。
さらに、本件土地は、本件相続の開始時において、賃貸人を甲として、月ぎめ駐車場の敷地として利用されていたところ、相続税法第22条が相続等により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定していることからすれば、月ぎめ駐車場の敷地から共同住宅の敷地への用途変更を前提として、当該変更のために要した費用の額を控除して本件土地の価額を評価することは、本件土地の本件相続の開始時における現況により評価したこととはならないものと考えられます。
そうすると、本件土地に共同住宅を建築するために各工事費用を要したことをもって直ちに評価通達に定める評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存するとは認められないものと考えられます。
作成日:令和7年9月24日
