38-02_遺産分割の際に支出した訴訟費用等

 

【質疑内容】

遺産分割の際に支出した訴訟費用及び弁護士費用は、譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費となりますか。

 

【回答内容】

1 関係法令等

(1) 所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨、同条第3項は、譲渡所得の金額は、その年中の資産の譲渡による所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨それぞれ規定しています。

(2) 所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定しています。

 

2 裁判例等

(1) 東京高等裁判所平成23年4月14日判決は、要旨、次のとおり判断しています。

イ 取得費のうちの資産の取得に要した金額は、被相続人と相続人の両者について、その不動産を取得したときにおける①その不動産の客観的価格を構成すべき取得代金の額と②その不動産を取得するための付随費用の額を合算すべきことになる。このうち、相続人については、相続は被相続人の死亡という事実に基づいて何らの対価なくして財産の承継が生ずるものであるから、①は考えられず、相続により取得した不動産の所有権移転登記手続等をするために要する費用(登録免許税等)が、②の付随費用に当たるものである。本件においては、遺産分割に要する費用が、相続人の上記②の付随費用に当たるかどうかが、問題となる。

ロ 遺産分割は、共同相続人が、相続によって取得した共有に係る相続財産の分配をする行為であり、これによって個々の相続財産の帰属が定まり、相続の開始の時にさかのぼって、各相続人が遺産分割により定められた財産を相続により取得したものとなるのである(民法第909条)。

このような法的性質に照らして考えると、遺産分割は、まず、これにより個々の資産の価値を変動させるものではなく、遺産分割に要した費用が当該資産の客観的価格を構成すべきものではないことが明らかである。そして、遺産分割は、資産の取得をするための行為ではないから、これに要した費用(例えば、遺産分割調停ないし同審判の申立手数料)は、資産を取得するための付随費用ということもできないといわざるを得ない(これに対し、例えば、既に共同相続人の共有名義の相続登記がされているときに、遺産分割の結果に基づいて単独名義に持分移転登記手続をするために要する費用は、単独で相続したことを公示するために必要な費用であるから、単独名義の相続登記をする費用と同様に、資産を取得するための付随費用に当たるというべきである。)。

したがって、遺産分割の手続について弁護士に委任をした場合における弁護士報酬は、相続人が相続財産を取得するための付随費用には当たらないものというべきである。

(2) 国税不服審判所平21年2月13日裁決は、要旨、次のとおり判断しています。

イ 譲渡所得の金額について、所得税法は、総収入金額から資産の取得費及び譲渡に要した費用の額を控除する旨規定し(所得税法第33条第3項)、この資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定している(同法第38条第1項)。

譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものであるところ、所得税法第33条第3項が総収入金額から控除し得るものを、当該資産の客観的価格を構成すべき金額のみに限定せず、取得費と並んで譲渡に要した費用をも掲げていることからすると、同法第38条第1項に規定する「資産の取得に要した金額」には、当該資産の客観的価格を構成すべき取得代金の額のほか、登録免許税、仲介手数料等の当該資産を取得するために通常必要と認められる付随費用の額も含まれると解するのが相当であり、当該資産の維持管理に要する費用その他日常的な生活費ないし家事費に属するものはこれに含まれないと解するのが相当である。

ロ そして、居住者が相続により取得した資産を譲渡したことにより、所得税法第60条第1項を適用して譲渡所得の金額を計算する場合において、相続人が当該資産を取得するために通常必要と認められる費用、例えば、相続の場合の被相続人から相続人への名義変更に係る不動産登記費用も、同法第38条第1項に規定する「資産の取得に要した金額」に該当すると解される。

もっとも、遺産分割の際に支出した訴訟費用、弁護士費用等は、一般には相続人間の紛争を解決するための費用であることから、相続人が当該資産を取得するために通常必要と認められる費用とはいえない。

したがって、遺産分割の際に支出した訴訟費用、弁護士費用等は、所得税法第38条第1項に規定する「資産の取得に要した金額」に含まれる付随費用には該当しない。

 

3 回答

上記2でみたとおり、遺産分割の際に支出した訴訟費用及び弁護士費用は、①その資産の客観的価格を構成すべき取得代金及び②その付随費用のいずれにも該当しないため、譲渡所得の金額の計算上入金額から控除する取得費とはなりません(譲渡に要した費用に該当しないことも明らかです)。

 

【参考】

1 所得税基本通達38-2《所有権等を確保するために要した訴訟費用等》は、取得に関し争いのある資産につきその所有権等を確保するために直接要した訴訟費用、和解費用等の額は、その支出した年分の各種所得の金額の計算上必要経費に算入されたものを除き、資産の取得に要した金額とする旨定めています。

2 例えば、所有権の帰属に関して紛争が生じている土地等を格安に購入し、その紛争を解決してその所有権を完全に自己に帰属させたような場合の紛争解決のために要した訴訟費用等は、その土地等の取得に要した金額と考えることができるため、「取得に関し争いのある資産」に限定して、資産の取得に要した金額とする旨定めたものと考えられます。

他方、完全な所有権を取得した後に他から受けた侵害を排除するために要した訴訟費用等は、その資産の取得に要した金額ではなく、その資産の維持・管理に要した費用に該当するものであると考えられます。

 

 

作成日:令和7年9月24