【質疑内容】
相続税の申告書の提出期限の延長について説明してください。
【回答内容】
1 関係法令等
(1) 相続税法関係
イ 相続税法第27条《相続税の申告書》第1項は、相続又は遺贈(当該相続に係る被相続人からの贈与により取得した財産で同法第21条の9《相続時精算課税の選択》第3項の規定の適用を受けるものに係る贈与を含みます。以下同じ。)により財産を取得した者及び当該被相続人に係る相続時精算課税適用者は、当該被相続人からこれらの事由により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格に係る相続税額があるときは、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内に課税価格、相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない旨規定しています。
ロ 相続税法基本通達27-5《申告期限の直前に認知等があった場合の申告書の提出期限の延長》の前段は、相続税法第32条《更正の請求の特則》第1項第2号から第4号まで若しくは相続税法施行令第8条《更正の請求の対象となる事由》第2項第1号若しくは第2号に掲げる事由又は同通達27-4《「相続の開始があったことを知った日」の意義》の(2)若しくは27-4の(6)に掲げる事由に該当する場合において、当該相続人又は受遺者以外の者に係る相続税の申告書の提出期限が当該事由が生じた日後1月以内に到来するときは、これらの事実は、昭和45年6月24日付徴管2-43ほか9課共同「国税通則法基本通達(徴収部関係)の制定について」通達(以下「通則法基本通達(徴収部関係)」といいます。)の第11条関係《災害等による期限の延長》の1《災害その他やむを得ない理由》の(3)に該当するものとして、当該相続人又は受遺者以外の者に係る相続税の申告書の提出期限は、これらの者の申請に基づき、当該事由が生じたことを知った日から2月の範囲内で延長をすることができるものとする旨定め、その後段は、相続税の申告書の提出期限前1月以内に相続税法第3条第1項第2号に規定する退職手当金等の支給額が確定した場合についても、これに準ずる旨定めています。
ハ 相続税法基本通達27-6《胎児がある場合の申告期限の延長》は、相続開始の時に相続人となるべき胎児があり、かつ、相続税の申告書の提出期限までに生まれない場合においては、当該胎児がないものとして相続税の申告書を提出することになるのであるが、当該胎児が生まれたものとして課税価格及び相続税額を計算した場合において、相続又は遺贈により財産を取得したすべての者が相続税の申告書を提出する義務がなくなるときは、これらの事実は、通則法基本通達(徴収部関係)の第11条関係の1の(3)に該当するものとして、当該胎児以外の相続人その他の者に係る相続税の申告書の提出期限は、これらの者の申請に基づき、当該胎児の生まれた日後2月の範囲内で延長することができるものとして取り扱うものとする旨定めています。
(2) 国税通則法(以下「通則法」といいます。)関係
イ 通則法第11条《災害等による期限の延長》は、国税庁長官、国税不服審判所長、国税局長、税務署長又は税関長は、災害その他やむを得ない理由により、国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、届出その他書類の提出、納付又は徴収に関する期限までにこれらの行為をすることができないと認めるときは、政令で定めるところにより、その理由のやんだ日から2月以内に限り、当該期限を延長することができる旨規定しています。
ロ 国税通則法施行令(以下「通則法施行令」といいます。)第3条《災害等による期限の延長》第1項は、国税庁長官は、都道府県の全部又は一部にわたり災害その他やむを得ない理由により、通則法第11条に規定する期限までに同条に規定する行為をすることができないと認める場合には、地域及び期日を指定して当該期限を延長するものとする旨規定し、通則法施行令第2条は、国税庁長官は、災害その他やむを得ない理由により、通則法第11条に規定する期限までに同条に規定する行為をすべき者(通則法施行令第3条第1項の規定の適用がある者を除きます。)であって当該期限までに当該行為のうち特定の税目に係る国税に関する法律又は情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律第6条《電子情報処理組織による申請等》第1項の規定により電子情報処理組織を使用して行う申告その他の特定の税目に係る特定の行為をすることができないと認める者(以下この項において「対象者」といいます。)が多数に上ると認める場合には、対象者の範囲及び期日を指定して当該期限を延長するものとする旨規定しています。
また、通則法施行令第3条第3項は、国税庁長官、国税不服審判所長、国税局長、税務署長又は税関長は、災害その他やむを得ない理由により、通則法第11条に規定する期限までに同条に規定する行為をすることができないと認める場合には、通則法施行令第3条第1項又は第2項の規定の適用がある場合を除き、当該行為をすべき者の申請により、期日を指定して当該期限を延長するものとする旨規定し、同条第4項は、同条第3項の申請は、通則法第11条に規定する理由がやんだ後相当の期間内に、その理由を記載した書面でしなければならない旨規定しています。
ハ 通則法基本通達(徴収部関係)の第11条関係の1の柱書は、通則法第11条の「災害その他やむを得ない理由」とは、国税に関する法令に基づく申告、申請、請求、届出、その他書類の提出、納付又は徴収に関する行為(以下第11条関係において「申告等」といいます。)の不能に直接因果関係を有するおおむね次に掲げる事実をいい、これらの事実に基因して資金不足を生じたため、納付ができない場合は含まない旨定めています。
(イ) 地震、暴風、豪雨、豪雪、津波、落雷、地すべりその他の自然現象の異変による災害(第11条関係の1の(1))
(ロ) 火災、火薬類の爆発、ガス爆発、交通途絶その他の人為による異常な災害(第11条関係の1の(2))
(ハ) 申告等をする者の重傷病、申告等に用いる電子情報処理組織(情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律第6条《電子情報処理組織による申請》第1項に規定する電子情報処理組織をいいます。)で国税庁が運用するものの期限間際の使用不能その他の自己の責めに帰さないやむを得ない事実(第11条関係の1の(3))
2 裁判例等
国税不服審判所令和5年11月15日裁決は、通則法第11条は、税務署長は、災害その他やむを得ない理由により、申告等の行為をその期限までにすることができないと認めるときは、その理由がやんだ日から2か月以内に限り、当該期限を延長することができる旨規定しているところ、「災害」とは、自然災害のほか、火災、ガス爆発等の人為的災害を含み、「その他やむを得ない理由」とは、交通、通信の途絶その他社会通念上、申告等の行為ができないと認められる真にやむを得ない理由、すなわち、客観的にみて申告等の行為が物理的に不可能であることに直接因果関係を有する事実に基づく理由であることを要し、その申請者の責めによって申告等の行為ができないと認められる主観的な理由はこれに含まれないと解するのが相当である旨判断しています。
3 回答
(1) 通則法第11条の規定による申告等の期限の延長
通則法第11条は、国税庁長官等は、災害その他やむを得ない理由により、国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、届出その他書類の提出、納付又は徴収に関する期限までにこれらの行為をすることができないと認めるときは、政令で定めるところにより、その理由のやんだ日から2月以内に限り、当該期限を延長することができる旨規定しています。
これを受けた通則法施行令第3条第1項は、地域指定といわれており、国税庁長官等が、地域及び期日を指定して当該期限を延長するもので、同条第2項は、対象者指定といわれており、対象者の範囲及び期日を指定して当該期限を延長するものです。これらは、国税庁告示により定められ、納税者において、特段の手続等をする必要はありません。他方、通則法施行令第3条第3項は、個別申請といわれており、災害その他やむを得ない理由により、通則法第11条に規定する期限までに同条に規定する行為をすることができないと認める場合に、当該行為をすべき者の申請により、期日を指定して当該期限を延長するものです。
なお、災害その他やむを得ない理由により、申告、申請、請求、届出その他書類の提出、納付又は徴収に関する期限までにこれらの行為ができない場合において、通則法施行令第3条第3項の規定により、申告、納付等の期限延長の指定を受けるためには、やむを得ない理由がやんだ後相当の期間内(原則として災害のやんだ日から1か月以内)に、所定の事項を記載した「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を、納税地を所轄する税務署長に提出する必要があります(ただし、災害その他やむを得ない理由があると認められない場合には、当該期限を延長することはできません。)。
(2) 相続特有の事由による申告期限の延長
イ 相続税法第27条第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者及び当該被相続人に係る相続時精算課税適用者は、当該被相続人からこれらの事由により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格に係る相続税額があるときは、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内に課税価格、相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない旨規定しており、相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内となります。
しかしながら、被相続人から財産を取得した相続人又は受遺者が相続税の申告書を提出する直前に、相続税法第32条第1項第2号から第4号まで若しくは相続税法施行令第8条第2項第1号若しくは第2号に掲げる事由又は相続税法基本通達27-4の(2)若しくは27-4の(6)に掲げる事由が生じた場合には、法定相続人の異動又は財産取得者及びその取得額の異動によって、各自の相続税額も変動することとなり、このような場合には、既に相続税の申告書を作成しているときは、その申告書を新たに作成しなくてはならなくなりますが、このような事由が相続税の申告書の提出期限前1か月以内に発生した場合には、当該期限までに相続税の申告書を新たに作成することについては、種々の困難が予想されます。
そこで、相続税法基本通達27-5の前段は、上記事由を列挙して、これらの事由に該当する場合において、これらの事由により新たに相続人又は受遺者となった者以外の者、すなわち、当初から相続人又は受遺者であった者に係る相続税の申告書の提出期限がその事由が生じた後1か月以内に到来するときは、これらの事実は、通則法基本通達(徴収部関係)の第11条関係の1の(3)に該当するものとして、当初から相続人又は受遺者であった者に係る相続税の申告書の提出期限は、これらの者の申請に基づき、その事由が生じたことを知った日から2か月の範囲内で延長することができるものとして取り扱うこととしたものです(相基通27-5の後段では、相続税の申告書の提出期限前1か月以内に相続又は遺贈により取得したものとみなされる退職手当金等の支給額が確定した場合にも上記に準ずることとされています。)。
なお、相続税法第32条第1項第2号から第4号まで若しくは相続税法施行令第8条第2項第1号若しくは第2号に掲げる事由又は相続税法基本通達27-4の(2)若しくは27-4の(6)に掲げる事由は、具体的には、次のとおりです。
(イ) 相続税法第32条第1項第2号から第4号までに掲げる事由
A 民法第787条《認知の訴え》又は第892条《推定相続人の廃除》から第894条《推定相続人の廃除の取消し》までの規定による認知、相続人の廃除又はその取消しに関する裁判の確定、同法第884条《相続回復請求権》に規定する相続の回復、同法第919条《相続の承認及び放棄の撤回及び取消し》第2項の規定による相続の放棄の取消しその他の事由により相続人に異動を生じたこと(第2号)。
B 遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したこと(第3号)。
C 遺贈に係る遺言書が発見され、又は遺贈の放棄があったこと(第4号)。
(ロ) 相続税法施行令第8条第2項第1号若しくは第2号に掲げる事由
A 相続若しくは遺贈又は贈与により取得した財産についての権利の帰属に関する訴えについての判決があったこと(第1号)。
B 民法第778条の4(相続の開始後に新たに子と推定された者の価額の支払請求権)又は第910条(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)の規定による請求があったことにより弁済すべき額が確定したこと(第2号)。
(ハ) 相続税法基本通達27-4の(2)若しくは27-4の(6)に掲げる事由
A 相続開始後において当該相続に係る相続人となるべき者について民法第30条《失踪の宣告》の規定による失踪の宣告があったこと(27-4の(2))。
B 民法第886条《相続に関する胎児の権利能力》の規定により、相続について既に生まれたものとみなされる胎児が生まれたこと(27-4の(6))。
ロ また、相続開始の時に相続人となるべき胎児があっても、相続税の申告書の提出期限までに生まれない場合には、その胎児がないものとして相続税の申告書を提出することとなりますが、この胎児が生まれたものとして課税価格及び相続税額を計算した場合において、例えば、遺産に係る基礎控除額の増加、未成年者控除の適用により、相続又は遺贈により財産を取得した全ての者が相続税の申告書を提出する義務がなくなるときは、仮に胎児以外の相続人等は、期限内に相続税の申告書を提出しても、胎児が生きて生まれれば、更正の請求(相続税法第32条第1項第2号及び相続税法基本通達32-1《「その他の事由により相続人に移動が生じたこと」の意義》)により納付税額がなくなることとなり、このような場合まで、胎児以外の相続人等に期限内に相続税の申告書の提出を求めることは、必ずしも適当でないと考えられます。
そこで、相続税法基本通達27-6は、このような場合には、通則法基本通達(徴収部関係)の第11条関係の1の(3)に該当するものとして、胎児以外の相続人に係る相続税の申告書の提出期限は、これらの者の申請に基づき、胎児の生まれた日後2か月の範囲内で延長することができるものとして取り扱うこととしたものです。
ハ 上記イ及びロを整理すると、下表のとおりとなります。
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事由 |
手続 |
延長の内容 |
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認知、相続人の廃除又はその取消しに関する裁判の確定、相続の回復、相続の放棄の取消しその他の事由により相続人に異動を生じたこと |
相続人等の申請(ただし、認知や胎児の出生、遺留分侵害額の請求をした者等、新たに相続税の申告書を提出することとなった者を除きます。) |
「事由」欄に掲げる事由が生じたことを知った日から2か月の範囲内で延長 |
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遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したこと |
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遺贈に係る遺言書が発見され、又は遺贈の放棄があったこと |
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相続若しくは遺贈又は贈与により取得した財産についての権利の帰属に関する訴えについての判決があったこと |
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相続の開始後に新たに子と推定された者の価額の支払請求権又は相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権に基づく請求があったことにより弁済すべき額が確定したこと |
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相続開始後において当該相続に係る相続人となるべき者について失踪の宣告があったこと |
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相続について既に生まれたものとみなされる胎児が生まれたこと |
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退職手当金等の支給額が確定したこと |
相続人等の申請 |
退職手当金等の支給額が確定したことを知った日から2か月の範囲内で延長 |
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相続人となるべき胎児がある場合で当該胎児が当該胎児が生まれたものとして課税価格及び相続税額を計算した場合において、他の相続人等の申告義務がなくなるとき |
胎児以外の相続人等の申請 |
胎児の生まれた日後2月の範囲内で延長 |
【参考】
1 租税特別措置法第69条の6《特定土地等及び特定株式等に係る相続税の課税価格の計算の特例》第1項の規定の適用を受けることができる者がいる場合
同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者のうちに、租税特別措置法第69条の6《特定土地等及び特定株式等に係る相続税の課税価格の計算の特例》第1項の規定の適用を受けることができる者がいる場合には、同法第69条の8《相続税及び贈与税の申告書の提出期限の特例》第1項の規定により、同項の特定非常災害に係る国税通則法第11条の規定により延長された申告に関する期限と特定非常災害発生日の翌日から10か月を経過する日とのいずれか遅い日が相続税の申告期限となります。
2 特別縁故者が相続財産の分与を受けた場合、
民法第958条の2《特別縁故者に対する相続財産の分与》第1項の規定により相続財産の全部又は一部を与えられた者は、相続税法第4条《遺贈により取得したものとみなす場合》第1項の規定により、その与えられた時における当該財産の時価に相当する金額を当該財産に係る被相続人から遺贈により取得したものとみなされることとなりますが、この場合、相続税法第29条《相続財産法人に係る財産を与えられた者等に係る相続税の申告書》第1項の規定により、同法第4条第1項に規定する事由が生じたため新たに同法第27条第1項に規定する申告書を提出すべき要件に該当することとなった者は、同項の規定にかかわらず、当該事由が生じたことを知った日の翌日から10月以内(その者が国税通則法第117条《納税管理人》第2項の規定による納税管理人の届出をしないで当該期間内にこの法律の施行地に住所及び居所を有しないこととなるときは、当該住所及び居所を有しないこととなる日まで)に相続税の申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。
3 特別寄与者が支払を受けるべき特別寄与料の額が確定した場合
特別寄与者が支払を受けるべき特別寄与料の額が確定した場合においては、相続税法第4条第2項の規定により、当該特別寄与者が、当該特別寄与料の額に相当する金額を当該特別寄与者による特別の寄与を受けた被相続人から遺贈により取得したものとみなされることとなりますが、この場合、相続税法第29条第2項の規定により、同法第4条第2項に規定する事由が生じたため新たに同法第27条第1項に規定する申告書を提出すべき要件に該当することとなった者は、同項の規定にかかわらず、当該事由が生じたことを知った日の翌日から10月以内(その者が国税通則法第117条第2項の規定による納税管理人の届出をしないで当該期間内にこの法律の施行地に住所及び居所を有しないこととなるときは、当該住所及び居所を有しないこととなる日まで)に相続税の申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。
作成日:令和8年1月20日
