【質疑内容】
甲は、相続税対策のため、長男乙の子である丙との養子縁組を考えています。
この場合における、相続人の数に算入される養子の数の否認について説明してください。
【回答内容】
1 関係法令等
(1) 民法関係
民法第802条《縁組の無効》は、縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする旨規定しています。
イ 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき(第1号)。
ロ 当事者が縁組の届出をしないとき。ただし、その届出が第799条《婚姻の規定の準用》において準用する第793条《婚姻の届出》第2項に定める方式を欠くだけであるときは、縁組は、そのためにその効力を妨げられない(第2号)。
(2) 相続税法関係
イ 相続税法第63条《相続人の数に算入される養子の数の否認》は、同法第15条《遺産に係る基礎控除》第2項各号に掲げる場合において当該各号に定める養子の数を同項の相続人の数に算入することが、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合においては、税務署長は、相続税についての更正又は決定に際し、税務署長の認めるところにより、当該養子の数を当該相続人の数に算入しないで相続税の課税価格(同法第19条《相続開始前7年以内に贈与があった場合の相続税額》又は第21条の14《相続時精算課税に係る相続税額》から第21条の18までの規定の適用がある場合には、これらの規定により相続税の課税価格とみなされた金額)及び相続税額を計算することができる旨規定しています。
ロ 相続税法基本通達63-1《相続人の数に算入される養子の数の否認規定の適用範囲》は、相続税法第63条の規定が適用される事項は、同法第12条《相続税の非課税財産》第1項第5号の保険金の非課税限度額、同項第6号の退職手当金等の非課税限度額、同法第15条第1項の遺産に係る基礎控除額及び同法第16条《相続税の総額》の相続税の総額に関する事項に限られるのであるから留意する旨定めています。
ハ 相続税法基本通達63-2《被相続人の養子のうち一部の者が相続税の不当減少につながるものである場合》は、被相続人の養子(同法第15条第3項の規定により実子とみなされる者を除きます。)のうちに同法第63条の規定による相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる養子(以下「不当減少養子」といいます。)がある場合には、同法第15条第2項に規定する相続人の数に算入する養子の数は、当該不当減少養子を除いた養子の数を基とするのであるから留意する旨定めています。
2 回答
(1) 相続税においては、基礎控除の額は法定相続人の数に比例して増加し、その基礎控除後の遺産額を法定相続人の数と法定相続分とによって按分して相続税の総額を計算することとなっていますが、このような税額の計算を利用した租税回避行為、すなわち、被相続人や相続人の支配下にあるような相続人の配偶者やその子などを被相続人の養子として法定相続人の数を増加させることによって、遺産に係る基礎控除を増額し、法定相続分を細分化して相続税の負担を回避する事例が発生していたことから、昭和63年12月の税制改正により、養子がある場合の相続税の遺産に係る基礎控除や相続税の総額などの計算上、養子の数を、実子がある場合には1人に、また、実子がない場合には2人までに制限することとされました。
(2) 最高裁判所平成29年1月31日第三小法廷判決は、養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法第802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない旨判断しています。
この判決は、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法第802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない旨判断したもの、すなわち、専ら相続税の節税のために養子縁組をすることのみをもって、養子縁組が無効となるものではいと判断したものであると考えられます。
他方、令和6年度版の相続税法基本通達逐条解説の解説には、「どのような養子が相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合に該当するかは、個々のケースにより異なるもので、一義的に定めることは難しいが、養子縁組の目的が専ら相続人の地位を有する者の増加だけにあると認められ、相続税の負担の軽減以外に養子縁組の目的があると認められない養子がこれに当たると考えられる。なお、縁組意思(親子関係を創設させる意思)や届出意思を欠いている養子縁組は、民法上も無効と解せられているので、ここにいういわゆる不当減少養子とは異なって相続人の地位すら有しないことになる。」と記載されています。
(3) そうすると、養子縁組の目的が専ら相続人の地位を有する者の増加だけにあると認められ、相続税の負担の軽減以外に養子縁組の目的があると認められない養子については、相続税法第63条の規定により、養子の数を否認されるリスクがあるものと考えられます。
しかしながら、相続税法第63条の規定に該当するか否かについて争われた事例は見当たらず、上記(1)のとおり、養子の数に制限が設けられ、租税回避行為を制限していることからすれば、課税庁である税務署が、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる旨判断することには困難を伴うものと考えられます。
作成日:令和7年9月24日
