【質疑内容】
1 事実関係
(1) 甲は、不動産及び預貯金などの財産を有していたところ、その生前中、公正証書により、その有する財産の全てをA株式会社(甲の子である乙が発行済株式総数の100%を保有しており、以下「A社」といいます。)に遺贈する旨の遺言をしました。
(2) 甲は、令和X年4月1日に死亡したところ、甲の相続人は、乙のみです。
2 質疑事項
法人に対する包括遺贈に係る課税関係について説明してください。
【回答内容】
1 関係法令等
(1) 所得税法関係
イ 所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定しています。
ロ 所得税法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》第1項柱書及び同項第1号は、贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなす旨規定しています。
(2) 相続税法関係
相続税法第9条は、同法第5条《贈与により取得したものとみなす場合》から第8条まで及び同法第1章《総則》第3節《信託に関する特例》に規定する場合を除くほか、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があった場合には、その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす旨規定しています。
(3) 法人税法関係
イ 法人税法第2条《定義》柱書及び第9号は、普通法人とは、公共法人、公益法人等及び協同組合等以外の法人をいい、人格のない社団等を含まない旨規定しています。
ロ 法人税法第22条第1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする旨規定し、同条第2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする旨規定しています。
2 回答
(1) はじめに(包括遺贈と特定遺贈)
包括遺贈と特定遺贈は、いずれも遺言によって財産を遺贈する方法であるところ、包括遺贈は、相続財産の全部又は一定の割合をもって表示した遺贈のことで、例えば、「全ての財産の2分の1を〇〇に遺贈する。」といったように、財産の内容を特定せずに割合を指定して遺贈する方法であるのに対し、特定遺贈は、特定の財産を特定の相手に与える遺贈のことで、例えば、「〇〇市〇〇町〇丁目〇番の土地を〇〇に遺贈する。」といったように、財産と受遺者を指定して遺贈する方法です。
民法は、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する旨規定しているため(民法第990条)、相続の放棄・承認に関する規定(民法915条ないし第919条)が適用されることから、包括受遺者が遺贈の放棄をするには、自己のために遺贈の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に放棄の申述をしなければならず(民法第915条)、また、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を持つため、被相続人の債務も承継する可能性があります。ただし、包括受遺者は、全て相続人と同一ではなく、例えば、包括受遺者には遺留分がなく、包括受遺者が遺言者より先に死亡しても、包括受遺者の相続人が代襲して受遺をすることもありません。
これに対し、特定遺贈であれば、原則として、いつでも放棄をすることが可能であり(民法第986条)、特定受遺者が遺贈の放棄をするには、家庭裁判所への手続は不要で、遺言執行者や他の相続人に意思表示をすれば足り、また、特定受遺者は、原則として被相続人の債務を承継しません。
さらに、特定遺贈の場合は、遺贈財産の一部放棄が可能であるのに対し、包括遺贈の場合は、遺贈の一部放棄はできません。
(2) 法人税
A社は、法人税法第2条《定義》柱書及び第9号規定により、普通法人に該当するところ、甲の相続財産の全てを包括遺贈により無償で取得することから、同法第22条第2項の規定により、当該相続財産の遺贈の時における時価を受贈益として、A社の遺贈の時における事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入することとなります。
(3) 所得税
甲の相続財産には、譲渡所得の起因となる不動産が含まれているところ、甲は、A社に対して、当該不動産を無償で遺贈していることから、所得税法第33条第1項及び第59条第1項第1号の規定により、遺贈の時における時価で甲からA社に対して資産の譲渡があったものとみなされ、被相続人に所得税が課税されることとなります。
乙及びA社は、甲の相続の開始があったことを知った日の翌日から4月を経過した日の前日までに、いわゆる準確定申告書を提出しなければなりませんが、納税は、A社が行うこととなります。
(4) 相続税
イ 相続税は、相続税法第1条の3《相続税の納税義務者》の規定により、原則として、個人に対して課税されるものであるところ、A社は、相続税法第66条《人格のない社団又は財団等に対する課税》第1項に規定する代表者又は管理者の定めのある人格のない社団又は財団、同条第4項に規定する持分の定めのない法人若しくは同法第66条の2《特定の一般社団法人等に対する課税》第2項第3号に規定する特定一般社団法人等のいずれにも該当しないことから、A社が個人とみなされて相続税が課税されることはありません。
ロ A社は、甲の相続財産の全てを包括遺贈により無償で取得していることから、A社の純資産が増加するため、一般的には、A社の株価は増加することとなります。
そうすると、A社の株式の価額の増加という利益受けた乙は、遺贈があった時において、当該利益の価額に相当する金額を甲から遺贈により取得したものとみなされ相続税が課税されることとなります。
なお、この場合、上記イのとおり、A社は相続税の納税義務者にはならないことから、乙が納付すべき相続税額は、A社の株価の増加分のみにより計算することとなります。
作成日:令和7年9月24日
