【質疑内容】
1 事実関係
(1) 甲は、令和X年2月1日に死亡した父である乙から、〇〇市〇〇町〇丁目〇番の土地(乙の持分は5分の4で、以下、当該土地を「本件土地」といいます。)を相続により取得し、相続を原因とする所有権移転登記を受けたところ、本件土地について、ほかに丙が5分の1の持分を有していることを確認しました。
なお、本件土地の固定資産税は、乙(乙の死亡後は甲)が負担しており、本来丙が負担すべき固定資産税相当額は、少なくとも2,000千円あったことが確認できました。
(2) 甲及び丙の話合いの結果、丙が本件土地の共有持分を放棄することとなり、令和X+1年2月1日に持分放棄を原因とする所有権移転登記がなされ、本件土地は甲の単独所有となりました。
なお、令和X+1年の路線価を基に財産評価基本通達により評価した本件土地の価額は80,000千円、通常の取引価額は100,000千円です。
(3) 甲は、令和X+1年中に、A株式会社に対し、本件土地を100,000千円で売却する旨の契約を締結し、同年中に100,000千円を当該会社から受領するとともに、本件土地を当該会社へ引き渡しました。
なお、本件土地に係る乙及び丙の取得費はいずれも不明であり、また、本件土地の譲渡に要した費用の額はありません。
2 質疑事項
共有持分の放棄により本件土地の共有持分を取得した場合の贈与税の課税関係及び本件土地の売却に係る譲渡所得の課税関係について説明してください。
【回答内容】
1 関係法令等
(1) 民法関係
イ 民法第255条《持分の放棄及び共有者の死亡》は、共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は他の共有者に帰属する旨規定しています。
ロ 民法第549条《贈与》は、贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる旨規定しています。
(2)相続税法関係
イ 相続税法第7条《贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合》本文は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があった時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があった時における当該財産の時価との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与により取得したものとみなす旨規定しています。
ロ 相続税法第9条本文は、対価を支払わないで、又は著しく低い価格の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を、当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなす旨規定しています。
ニ 相続税法基本通達9-12《共有持分の放棄》は、共有に属する財産の共有者の一人がその持分を放棄したとき、又は死亡した場合においてその者の相続人がないときは、その者に係る持分は、他の共有者がその持分に応じ贈与又は遺贈により取得したものとして取り扱うものとする旨定めています。
ホ 平成元年3月29日付直評5ほか「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」(以下「負担付贈与等通達」といいます。)の1の本文は、土地及び土地の上に存する権利並びに家屋及びその附属設備又は構築物のうち、負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得したものの価額は、当該取得時における通常の取引価額に相当する金額によって評価する旨定めています。
(3) 所得税法関係
イ 所得税法第9条《非課税所得》第1項本文及び同項第17号は、相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含みます。)係る所得については、所得税を課さない旨規定しています。
ロ 所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定しています。
ハ 所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除すべき譲渡所得の基因となる資産の取得費は、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の合計とする旨規定しています。
ニ 所得税法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》第1項は、次に掲げる事由により居住者の有する山林又は譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなす旨規定しています。
(イ) 贈与(法人に対するものに限ります。)又は相続(限定承認に係るものに限ります。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限ります。)(第1号)
(ロ) 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限ります。)(第2号)
また、同条第2項は、居住者が同条第1項に規定する資産を個人に対し同項第2号に規定する対価の額により譲渡した場合において、当該対価の額が当該資産の譲渡に係る山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上控除する必要経費又は取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額に満たないときは、その不足額は、その山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、なかったものとみなす旨規定しています。
ホ 所得税法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》第1項は、居住者が次に掲げる事由により取得した同法第59条第1項に規定する資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算においては、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす旨規定しています。
(イ) 贈与、相続(限定承認を除きます。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除きます。)(第1号)
(ロ) 同法第59条第2項の規定に該当する譲渡(第2号)
(3) 租税特別措置法(以下「措置法」といいます。)関係
イ 措置法第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除》第1項本文は、個人が昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地を譲渡した場合における長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、所得税法第38条及び同法第61条《昭和27年12月31日以前に取得した資産の取得費等》の規定に関わらず、当該収入金額の100分の5に相当する金額とする旨規定しています。
ロ 昭和46年8月26日付直資4-5ほか「租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて」(以下「措置法通達」といいます。)31の4-1《昭和28年以後に取得した資産についての適用》は、措置法第31条の4第1項の規定は、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等の譲渡所得の計算につき適用されるのであるが、昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等の取得費についても、同項の規定に準じて計算して差し支えないものとする旨規定しています。
2 裁判例等
(1) 相続税法第7条の趣旨
東京地方裁判所平成7年4月27日判決は、贈与税は相続税の補完税として、贈与により無償で取得した財産の価額を対象として課される税であるが、その課税原因を贈与という法律行為に限定した場合には、有償で、しかも、時価より著しく低い価額で財産の移転を図ることによって、贈与税の負担を回避しつつ、本来、相続税の対象となるべき財産を生前に処分することで相続税の負担の軽減を図ることができることとなり、租税負担の公平が著しく害されることとなり、相続法第7条の規定は、こうした不都合を防止する目的で、時価より著しく低い価格で売買が行われた場合には、当事者に贈与の意思があったかどうかを問わず、その対価と時価との差額に相当する金額の贈与があったものとみなすこととしているものと解される旨判断しています。
(2) 相続税法第9条の趣旨
大阪地方裁判所平成25年12月12日判決は、相続税法第9条の趣旨は、法律的には贈与又は遺贈によって財産を取得したものとはいえないが、そのような法律関係の形式とは別に、実質的にみて,贈与又は遺贈を受けたのと同様の経済的利益を享受している事実がある場合に、租税回避行為を防止するため、税負担の公平の見地から、贈与契約又は遺言の有無にかかわらず、その取得した経済的利益を、当該利益を受けさせた者からの贈与又は遺贈によって取得したものとみなして、贈与税又は相続税を課税することとしたものと解される旨判断しています。
(3) みなし贈与課税と譲渡所得課税
東京地方裁判所平成25年10月22日判決は、居住者に対して著しく低い価額の対価での資産の譲渡がされた場合、当該譲渡につきみなし贈与課税がされる場合であっても、当該資産の増加益については、その時点では譲渡人(みなし贈与者)に対して当該対価たる収入として実現した限度で課税され、それを超える未実現の部分は未清算のまま課税が実質的に繰り延べられた上、その後譲受人(みなし受贈者)が当該資産を譲渡することによってその増加益が具体的に顕在化した場合に、その譲渡所得の金額の計算上、当該著しく低い価額が取得費とされることにより、課税が実質的に繰り延べられていた譲渡人(みなし贈与者)の資産の保有期間に係る増加益も含めて譲受人(みなし受贈者)に課税されることになり、このような譲渡所得課税に関する所得税法上の規定からすれば、居住者がみなし贈与課税を受ける譲渡(著しく低い価額の対価による譲渡)により取得した資産に係る譲渡所得に対する課税は、①みなし贈与者の保有期間中に抽象的に発生し蓄積された資産の増加益であって、みなし贈与の際には未実現のものとして譲渡所得課税を受けなかった部分と、②みなし受贈者の保有期間中に抽象的に発生し蓄積された資産の増加益とを合計し、これを所得として、その資産が後に譲渡された時点において、上記の所得が実現したものと取り扱って所得税の課税対象としているものであるということができ、これは、居住者が贈与により取得した資産に係る扱いと実質的には異ならないものであることから、所得税法は、みなし贈与者の保有期間中に抽象的に発生し蓄積された資産の増加益であって、みなし贈与の際には譲渡所得課税を受けなかった未清算の部分(対価を超える部分)について、当該資産の時価と対価との差額に相当する経済的価値がみなし贈与時においてみなし受贈者に対する贈与税の課税対象となることとは別に、みなし贈与後にそれが譲渡された時において、みなし受贈者に対する所得税の課税対象となることを予定しているものと解される旨判断しています。
3 回答
本質疑の検討に当たっては、まず、丙の共有持分の放棄が対価を伴う取引に該当するか否かにより、贈与税及び譲渡所得の課税関係が異なることとなることに留意すべきです。すなわち、①丙が本来負担すべきであった本件土地に係る固定資産税相当額の支払を甲が免除し、これを対価として丙の本件土地に係る所有権が甲に移転した場合(対価を伴う取引に該当する場合)と、②そもそも乙(乙の死亡後は甲)は丙が本来負担すべきであった本件土地に係る固定資産税相当額の返還を求めるつもりはなかったとか、あるいは丙が固定資産税相当額の精算するなど、本件土地の所有権が単なる共有持分の放棄にすぎない場合(対価を伴う取引に該当しない場合)によって、贈与税及び譲渡所得の課税関係が異なることとなります。
次に、本質疑を検討するに当たって、所得税法第59条第1項第1号及び同法第60条第1項第1号に規定する贈与、相続又は遺贈に、相続税法の規定により相続、遺贈又は贈与により取得したものとみなされるものが含まれるか否かですが、この点について、所得税法第59条第1項第1号及び同法第60条第1項第1号には、同法第9条第1項第17号と違い、いずれも、相続税法の規定により相続、遺贈又は贈与により取得したものとみなされるものを含む旨の規定はないことから、所得税法第59条第1項第1号及び同法第60条第1項第1号に規定する贈与、相続又は遺贈には、相続税法の規定により相続、遺贈又は贈与により取得したものとみなされるものは含まれないものと解されます。
(1) 共有持分の放棄による課税関係
イ 対価を伴う取引に該当する場合
(イ) 相続税法第7条本文の規定及び負担付贈与等通達の1の本文の定めにより、甲は、返還を受けるべき固定資産税相当額2,000千円の免除を対価として、本件土地の5分の1の所有権を丙から取得したものと認められるところ、当該対価の額は、著しく低い価額の対価であるものと認められるため、当該対価の額2,000千円と取得時における通常の取引価額に相当する金額20,000千円(100,000千円の5分の1)との差額に相当する金額18,000千円を丙から贈与により取得したものとみなされ、贈与税が課税されることとなります。
(ロ) 丙は、返還すべき固定資産税相当額2,000千円の免除を対価として、本件土地の5分の1の所有権を譲渡したものと認められるため、収入金額2,000千円から本件土地の取得費として2,000千円の100分の5に相当する金額100千円を控除した金額1,900千円が長期譲渡所得の金額となり、所得税が課税されることとなります(個人間の取引であるため、所得税法第59条第1項第2号の規定は適用されません。)。
ロ 対価を伴う取引に該当しない場合
(イ) 相続税法第9条本文の規定及び相続税法基本通達9-12の定めにより、甲は、対価を支払わないで、本件土地の持分5分の1に相当する価額の利益を受けたものと認められるため、本件土地の持分5分の1の価額に相当する金額16,000千円(本件土地の財産基本通達の定めによる評価額80,000千円の5分の1)を丙から贈与により取得したものとみなされ、贈与税が課税されることとなります。
(ロ) 対価を伴う取引には該当しないため、丙には譲渡所得の課税関係は生じません(個人間の取引であるため、所得税法第59条第1項第1号の規定は適用されません。)。
(2) 本件土地の売却に係る課税関係
イ 対価を伴う取引に該当する場合
所得税法第60条第1項第1号に規定する贈与には、相続税法の規定によりは贈与により取得したものとみなされるものは含まれないものと解されるところ、甲は、本件土地の持分5分の1の部分については贈与により取得したものとみなされることから、所得税法第60条第1項第1号に規定する贈与により取得した資産には該当しません。また、本件土地の持分5分の1の部分の対価の額2,000千円が譲渡所得の金額の計算上控除する取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額100千円を上回ることから、同条第2号に規定する同法第59条第2項に該当する譲渡により取得した資産にも該当しません。
そうすると、本件土地の持分5分の1の部分については、所得税法第60条第1項の規定は適用されないため、取得時期及び取得費とも引き継がれないこととなります。
したがって、①本件土地の持分5分の4の部分については、収入金額80,000千円(100,000千円の5分の4)から取得費4,000千円(80,000千円の100分の5に相当する金額)を控除した金額76,000千円が長期譲渡所得の金額、②本件土地の持分5分の1の部分については、収入金額20,000千円(100,000千円の5分の1)から取得費2,000千円を控除した金額18,000千円が短期譲渡所得の金額となり、所得税が課税されることとなります。
ロ 対価を伴う取引に該当しない場合
所得税法第60条第1項第1号に規定する贈与には、相続税法の規定によりは贈与により取得したものとみなされるものは含まれないものと解されるところ、甲は、本件土地の持分5分の1の部分については贈与により取得したものとみなされることから、所得税法第60条第1項第1号に規定する贈与により取得した資産には該当しません。また、対価を伴う取引ではないことから、同条第2号に規定する同法第59条第2項に該当する譲渡により取得した資産にも該当しません。
そうすると、本件土地の持分5分の1の部分については、所得税法第60条第1項の規定は適用されないため、取得時期及び取得費とも引き継がれないこととなります。
したがって、①甲土地の持分5分の4の部分については、収入金額80,000千円(100,000千円の5分の4)から取得費4,000千円(80,000千円の100分の5に相当する金額)を控除した金額76,000千円が長期譲渡所得の金額、②本件土地の持分5分の1の部分については、収入金額20,000千円(100,000千円の5分の1)から取得費零円を控除した金額20,000千円が短期譲渡所得の金額となり、所得税が課税されることとなります。
なお、上記②の短期譲渡所得の金額の計算上控除する取得費を零円としていますが、この点について、甲は、共有持分の放棄により本件土地の持分5分の1を取得しているところ、その取得に関し経済的負担はなく、共有持分の放棄の際に増加益の清算もされておらず、所得税法第38条第1項に規定する取得費(その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額)がないためです。また、措置法第31条の4第1項及び措置法通達31の4-1は、いずれも長期譲渡所得であることを前提としているため、短期譲渡所得の計算においては、いわゆる概算取得費を控除することはできないものと考えられます。
作成日:令和7年9月24日
