32-02_共同相続人間において相続分の譲渡があった場合の更正の請求の可否

 

【質疑内容】

1 事実関係

(1) 令和X年2月1日に死亡した甲(以下、甲の死亡により開始した相続を「本件相続」といいます。)の共同相続人は、いずれも甲の子である乙、丙及び丁の3名です。

(2) 乙、丙及び丁は、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」といいます。)について、相続により取得した財産の全部が未分割であるとして、相続税法第55条《未分割遺産に対する課税》の規定に基づき、民法の規定による相続分の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算し、法定申告期限までに申告書を提出しました。

(3) その後、丁は、自己の相続分の全部を乙に無償で譲渡しました。

2 質疑事項

丁は、相続分を無償で譲渡したことから、相続財産を取得しないことになったとして、本件相続税の更正の請求をしようと考えていますが、この更正の請求は認められますか。

 

【回答内容】

1 関係法令等

(1) 民法関係

民法第905条《相続分の取戻権》第1項は、共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる旨規定し、同条第2項は、同条第1項の権利は、1箇月以内に行使しなければならない旨規定しています。

(2) 相続税法関係

イ 相続税法第11条の2《相続税の課税価格》第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者が同法第1条の3《相続税の納税義務者》第1項第1号又は第2号の規定に該当する者である場合においては、その者については、当該相続又は遺贈により取得した財産の価額の合計額をもって、相続税の課税価格とする旨規定し、同法第11条の2第2項は、相続又は遺贈により財産を取得した者が同法第1条の3第1項第3号又は第4号の規定に該当する者である場合においては、その者については、当該相続又は遺贈により取得した財産でこの法律の施行地にあるものの価額の合計額をもって、相続税の課税価格とする旨規定しています。

ロ 相続税法第32条《更正の請求の特則》第1項柱書及び同項第1号は、相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は、同法第55条の規定により分割されていない財産について民法(第904条の2《寄与分》を除きます。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従って計算された課税価格と異なることとなったことにより当該申告又は決定に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、当該事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額につき更正の請求(国税通則法第23条《更正の請求》第1項の規定による更正の請求をいいます。)をすることができる旨規定しています。

ハ 相続税法第55条本文は、相続若しくは包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当該相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によってまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2を除きます。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算するものとする旨規定し、そのただし書は、その後において当該財産の分割があり、当該共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従って計算された課税価格と異なることとなった場合においては、当該分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、納税義務者において申告書を提出し、若しくは同法第32条第1項に規定する更正の請求をし、又は税務署長において更正若しくは決定をすることを妨げない旨規定しています。

 

2 裁判例等

(1) 相続分の譲渡の意義

最高裁判所平成13年7月10日第三小法廷判決は、「共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し、譲受人は従前から有していた相続分と新たに取得した相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割に加わることとなり、分割が実行されれば、その結果に従って相続開始の時にさかのぼって被相続人からの直接的な権利移転が生ずることになる。このように、相続分の譲受人たる共同相続人の遺産分割前における地位は、持分割合の数値が異なるだけで、相続によって取得した地位と本質的に異なるものではない。そして、遺産分割がされるまでの間は、共同相続人がそれぞれの持分割合により相続財産を共有することになるところ、上記相続分の譲渡に伴って個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずるものと解される。」と判断しています。

すなわち、相続分の譲渡とは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分の譲受人に対する移転をいいます。

また、民法第905条第1項は、「共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは」とのみ規定しているものの、共同相続人間での相続分の譲渡も可能であると解されています。

(2) 相続税法第32条第1項第1号に規定する「財産の分割の意義」

イ 大阪地方裁判所令和4年4月14日判決は、「共同相続人間における相続分の譲渡は、譲渡人が相続によって取得した積極財産と消極財産とを包含した遺産全体に対する割合的な持分を、他の共同相続人に譲渡することをいい、これに伴い、譲渡人が有する個々の相続財産についての共有持分も譲受人に移転するものである。相続分の譲渡は、譲渡人と譲受人の合意のみによって行うことができ、相続人全員の合意を必要とせず、その効果は相続開始時に遡及せず、相続分の譲渡の時に生ずるなど、遺産分割とはその内容性質を異にするものではある・・・」と判断しており、これを受けた大阪高等裁判所令和4年12月2日判決も第一審を支持しています。

ロ 国税不服審判所令和元年5月7日裁決は、「請求人は、遺産分割調停において請求人の相続分を全部譲渡(本件相続分譲渡)したことは、代償分割に該当し、加えて、請求人が当該遺産分割調停事件から排除されたことからしても、本件相続分譲渡が相続税法第32条《更正の請求の特則》第1号に規定する「財産の分割」に該当することは明らかである旨主張する。しかしながら、同号の「財産の分割」とは、相続財産の帰属を確定させる民法上規定された「遺産の分割」(民法第906条《遺産の分割の基準》以下)を指すものと解するのが相当であり、本件相続分譲渡は、譲渡当事者間で遺産分割の前提となる具体的相続分を変更したにとどまり、相続人全員の合意ないし家庭裁判所の審判によって相続財産の帰属自体が確定する遺産分割とはその法的性質も異なるから、本件相続分譲渡をもって、被相続人の未分割財産について、遺産分割としての代償分割が成立したとは認められず、相続税法第32条第1号に規定する「財産の分割」に該当しない。」と判断しています。

 

3 回答

(1) 相続税法第32条第1項柱書及び同項第1号を適用するためには、①相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者であること、②同法第55条の規定により分割されていない財産について民法(第904条の2を除きます。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って課税価格が計算されていたこと、③その後当該財産の分割が行われたこと、④共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従って計算された課税価格と異なることとなったことにより当該申告又は決定に係る課税価格及び相続税額が過大となったこと及び⑤当該事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額につき更正の請求をすることが必要です。

(2) 丁から乙への相続分の譲渡は、丁の相続分を乙に無償で譲渡することを、両当事者で合意したものであるところ、このことは、両当事者間で遺産分割の前提となる具体的相続分を変更したにとどまり、相続人全員の合意ないし家庭裁判所の審判によって相続財産の帰属自体が確定する遺産分割とはその法的性質も異なるから、当該相続分の譲渡をもって、甲の未分割財産について、遺産分割が成立したとは認められず、相続税法第32条第1項第1号に規定する「財産の分割」に該当しないため、上記(1)の③の要件を充足しません。

したがって、丁が、相続財産を取得しないことになったとして、本件相続税の更正の請求をしたとしても、当該更正の請求は認められないものと考えられます。

なお、今後、乙及び丙の間で遺産分割協議が成立し、当該分割により取得した財産に係る課税価格が当初申告における課税価格と異なることとなったことにより申告に係る課税価格及び相続税額が過大となった者は、丁を含め、相続税法第32条第1項柱書及び同項第1号の規定に基づく更正の請求をすることができるものと考えられます。

 

 

作成日:令和7年9月24