【質疑内容】
甲は、親戚の乙から3,000万円の借入れをしていたところ、甲が所有する時価5,000万円のA土地を乙に渡し、当該3,000万円の借入金を消滅させることで、乙と合意する予定ですが、この場合の課税関係について説明してください。
また、時価5,000万円のA土地ではなく、時価1,000万円のB土地の場合にはどのような課税関係となるか説明してください。
【回答内容】
1 関係法令等
(1) 民法関係
民法第482条《代物弁済》は、弁済をすることができる者(以下、この条において「弁済者」といいます。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する旨規定しています。
(2) 所得税法関係
イ 所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定し、同条第3項は、譲渡所得の金額は、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定しています。
ロ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定し、同条第2項は、同条第1項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定しています。
(3)相続税法関係
イ 相続税法第8条本文は、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で債務の免除、引受け又は第三者のためにする債務の弁済による利益を受けた場合においては、当該債務の免除、引受け又は弁済があった時において、当該債務の免除、引受け又は弁済による利益を受けた者が、当該債務の免除、引受け又は弁済に係る債務の金額に相当する金額(対価の支払があった場合には、その価額を控除した金額)を当該債務の免除、引受け又は弁済をした者から贈与(当該債務の免除、引受け又は弁済が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす旨規定し、そのただし書は、当該債務の免除、引受け又は弁済が次のいずれかに該当する場合においては、その贈与又は遺贈により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない旨規定しています。
(イ) 債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、当該債務の全部又は一部の免除を受けたとき(第1号)。
(ロ) 債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その債務者の扶養義務者によって当該債務の全部又は一部の引受け又は弁済がなされたとき(第2号)。
ロ 相続税法第9条本文は、同法第5条《贈与により取得したものとみなす場合》から第8条まで及び第1章《相続》第3節《信託に関する特例》に規定する場合を除くほか、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があった場合には、その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす旨規定し、そのただし書は、当該行為が、当該利益を受ける者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その者の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるためになされたものであるときは、その贈与又は遺贈により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない旨規定しています。
2 裁判例等
(1) 最高裁判所昭和50年5月27日第三小法廷判決は、要旨、次のとおり判断しています。
譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであるから、その課税所得たる譲渡所得の発生には、必ずしも当該資産の譲渡が有償であることを要しないから、所得税法第33条1項にいう「資産の譲渡」とは、有償無償を問わず資産を移転させる一切の行為をいうものと解すべきである。
(2) 東京地方裁判所平成25年9月27日判決及び東京高等裁判所平成26年5月19日は、要旨、次のとおり判断しています。
イ 所得税法は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得という所得区分を設けるほか(同法23条ないし34条)、それらに含まれない所得を全て雑所得として課税の対象としており(同法35条)、人の担税力を増加させる経済的利得は全て所得を構成するという包括的所得概念を採用して、所得がその性質や発生の態様によって担税力が異なるという前提に立って、公平負担の観点から、各種の所得について、それぞれの担税力に応じた計算方法を定め、また、それぞれの態様に応じた課税方法を定めるために、所得をその源泉ないし性質によって10種類に分類している。
また、所得税法は、所得金額の計算の通則として同法36条を置き、同条1項は、その年分の各種所得の総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定している。
ロ 所得税法33条1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定し、同条3項は、譲渡所得の金額は、その年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。
そして、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであり、売買交換等によりその資産の移転が対価の受入れを伴うときは、上記増加益が対価のうちに具体化されるので、法はこれを課税の対象としてとらえたものであると解される。そうすると、有償の譲渡が行われる場合において譲渡所得として課税される対象は、当該資産の譲渡の「対価」たる性格を有する金額であると解することが相当である。したがって、個人がその有する資産を有償で譲渡した場合であっても、当該譲渡金額中に当該資産の譲渡の「対価」たる性格を有しない部分があるときは、当該部分は、譲渡所得の課税対象ではないこととなる。
(3) 大阪地方裁判所平成25年12月12日判決は、要旨、次のとおり判断しています。
相続税法第9条の趣旨は、法律的には贈与又は遺贈によって財産を取得したものとはいえないが、そのような法律関係の形式とは別に、実質的にみて,贈与又は遺贈を受けたのと同様の経済的利益を享受している事実がある場合に、租税回避行為を防止するため、税負担の公平の見地から、贈与契約又は遺言の有無にかかわらず、その取得した経済的利益を、当該利益を受けさせた者からの贈与又は遺贈によって取得したものとみなして、贈与税又は相続税を課税することとしたものと解される。
(4) 国税不服審判所令和3年7月12日裁決は、要旨、次のとおり判断しています。
相続税法第9条は、対価を支払わないで又は著しく低い価額の対価で利益を受けた者がいる場合に、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を、当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなして、贈与税を課税することとした規定である。
その趣旨とするところは、私法上、贈与によって財産を取得したものと認められない場合に、そのような私人間の法律関係の形式とは別に、実質的にみて、贈与を受けたのと同様の経済的利益を享受している事実がある場合に、租税回避行為を防止し、税負担の公平を図る見地から、贈与契約の有無にかかわらず、その取得した経済的利益を、当該利益を受けさせた者からの贈与によって取得したものとみなして、贈与税を課税することとしたものと解される。
相続税法第9条が規定する「利益を受けた場合」とは、おおむね利益を受けた者の財産(積極財産)の増加又は債務(消極財産)の減少があった場合等を意味するものと解され、上記趣旨に鑑みると、同条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合に該当するか否かの判定については、対価の支払の事実の有無を実質により判定し、当該経済的利益を受けさせた者の財産の減少と、贈与と同様の経済的利益の移転があったか否かにより判断することを要するものと解するのが相当である。
3 回答
(1) 代物弁済とは
代物弁済とは、債務者が本来の給付(金銭など)に代えて、他の給付(不動産や動産など)を債権者の承諾を得て行い、債務を消滅させる合意のことをいい、当事者間の契約により成立し、現実に別の物が給付された時点で債務が消滅します。
その要件は、①本来の債務が存在する(金銭債務など)こと、②債権者と債務者の間で、他の物で弁済することに同意すること及び③代物(他の給付)が実際に債権者に移転することです。
(2) 代物弁済により資産を移転した場合の課税関係
イ 代物弁済は、本来の給付に代えて他の財産の給付をなすことによって既存の債務を消滅させる有償契約であることから、その代物弁済により移転する資産が譲渡所得の起因となる資産であるときは、その移転があった時にその資産を譲渡したこととなります。このとき、その代物弁済により消滅した債務の額に相当する価額によりその資産を譲渡したこととなるため、通常、その消滅した債務の額がその資産の譲渡所得の収入金額となります。
なお、譲渡所得の収入金額となる代物弁済により消滅した債務の額が幾らとなるのかという点について、この資産の移転が金銭の支払に代えて行われるものであることからすると、通常は、その資産の時価に相当する債務の額を消滅させる旨の合意が行われるものと考えられますが、その資産の時価と消滅した債務の額との間に差額が生じる場合も想定されます。このような場合においては、その当事者間の合意に至る経緯やその合意内容等を踏まえ、その資産の移転により消滅した債務の額を個々に判断し、譲渡所得の収入金額を決定する必要があります。
ロ また、個人がその有する資産を他の個人に対して有償で譲渡した場合における課税関係は、当該譲渡価額が、当該資産の譲渡の「対価」たる性格を有する限りにおいて、譲渡所得に係る収入金額として課税されますが、当該譲渡価額中に当該資産の譲渡の「対価」たる性格を有しておらず、個人から贈与された金品としての性格を有する部分があると認められるときは、当該部分の金額については、贈与税の課税価格に算入され贈与税が課税されるべきこととなります。
(3) 清算金などの授受がある場合の譲渡所得及び贈与税の課税関係
イ 甲が時価5,000万円のA土地を代物弁済により譲渡する場合
消滅する債務の額を上回る時価の資産を債権者に移転し、その差額を清算金として受領する場合には、譲渡所得の収入金額は、消滅する債務の額と受領する清算金の額との合計額となります。すなわち、乙からの借入金3,000万円に対し、甲が金銭の支払に代えて時価5,000万円のA土地を債務の履行として乙に移転する場合において、甲が乙からその差額に相当する2,000万円を受領するときは、A土地の移転により消滅する債務の額3,000円と受領する清算金の額2,000万円との合計額5,000万円が甲の譲渡所得の収入金額となります。
なお、この場合には、乙は、貸付金3,000万円とA土地の時価5,000万円のとの差額2,000万円を清算金として甲に支払うことから、贈与税の課税関係は生じません。
ロ 甲が時価1,000万円のB土地を代物弁済により譲渡する場合
消滅する債務の額を下回る時価の資産を債権者に移転し、その差額を清算金として支払う場合には、譲渡所得の収入金額は、消滅する債務の額となります。すなわち、乙からの借入金3,000万円に対し、甲が金銭の支払に代えて時価1,000万円のB土地を債務の履行として乙に移転する場合において、甲が乙に対しその差額に相当する残りの債務2,000万円を別途支払うときは、B土地の移転により消滅する債務の額1,000円が甲の譲渡所得の収入金額となります。
なお、この場合には、甲は、借入金3,000万円とB土地の時価1,000万円のとの差額に相当する残りの債務2,000万円を別途乙に支払うことから、贈与税の課税関係は生じません。
(4) 清算金などの授受がない場合の譲渡所得及び贈与税の課税関係
イ 甲が時価5,000万円のA土地を代物弁済により譲渡する場合
消滅する債務の額を上回る時価の資産を債権者に移転し、その差額を清算金として受領しない場合には、譲渡所得の収入金額は、消滅する債務の額(移転する資産の時価)となります。すなわち、乙からの借入金3,000万円に対し、甲が金銭の支払に代えて時価5,000万円のA土地を債務の履行として乙に移転する場合において、甲が乙からその差額に相当する2,000万円を受領しないときは、A土地の移転により消滅する債務の額3,000円(A土地の時価)が甲の譲渡所得の収入金額となります。
なお、この場合には、乙は、貸付金3,000万円とA土地の時価5,000万円のとの差額2,000万円を清算金として甲に支払わないことから、当該2,000万円の部分について、相続税法第9条の規定により、(同条のただし書に該当しない限り、)贈与税が課税されることとなります(無償で財産を与えることについての合意が成立している場合には本来の贈与として、贈与税が課税されることとなります。)。
ロ 甲が時価1,000万円のB土地を代物弁済により譲渡する場合
消滅する債務の額を下回る時価の資産を債権者に移転し、その差額を清算金として支払わない場合には、譲渡所得の収入金額は、消滅する債務の額(移転する資産の時価)となります。すなわち、乙からの借入金3,000万円に対し、甲が金銭の支払に代えて時価1,000万円のB土地を債務の履行として乙に移転する場合において、甲が乙に対しその差額に相当する残りの債務2,000万円を別途支払わないときは、B土地の移転により消滅する債務の額1,000万円(B土地の時価)が甲の譲渡所得の収入金額となります。
なお、この場合には、甲は、借入金3,000万円とB土地の時価1,000万円のとの差額に相当する残りの債務2,000万円を別途乙に支払わないことから、当該2,000万円の部分について、債務免除を受けたものとして、相続税法第8条の規定により、(同条のただし書に該当しない限り、)贈与税が課税されることとなります。
【参考】
1 国税庁ウェブページのタックスアンサー「№3214 土地建物を売ったときの収入金額に含める金額」について
国税庁ウェブページのタックスアンサー「№3214 土地建物を売ったときの収入金額に含める金額」において、「債務の弁済のために土地建物を債権者に渡す場合は、その土地建物の時価が収入金額になります。」と掲載されています。
2 印紙税に係る契約金額ついて
課税文書に該当する契約書の中には、契約金額によって税率の異なるものや一定金額未満のものを非課税としているものがあるところ、代物弁済契約書の場合の契約金額は、次のとおりとなります(印紙税法基本通達の第1章《総則》の第5節《記載金額》の第23条《契約金額の意義》参照)。
(1) 借用金3,000万円の支払に代えて土地を譲渡するとしたものは、第1号文書・3,000万円。
(2) 借用金3,000万円の支払に代えて5,000万円相当の土地を譲渡するとともに、債権者は2,000万円を債務者に支払うとしたものは、第1号文書・5,000万円。
作成日:令和8年5月20日
